精神保健福祉士の役割

2020/09/01

精神保健福祉士の仕事

精神保健福祉士の仕事と就職先ガイド

コロナ禍のなかで、社会に不安を抱える人が増えてきています。 またその反面で精神保健福祉センターをはじめとして、人々のこころの健康の保持などを援助する機関やそれらを担う精神保健福祉士という専門職が注目されています。 今回は『精神保健福祉士』の役割、仕事内容、就職先についてご紹介します。 精神保健福祉士と目指す方に役立つ情報をご紹介します。 1、精神保健福祉士とは? 精神保健福祉士は精神的障害を持つ方が円滑な日常生活を送れるように支援をおこなう専門職です。平成9年(1997年)制定の「精神保健福祉法」に基づいて生まれた国家資格で、精神科ソーシャルワーカー(PSW)と呼ばれています。 日本では、社会福祉士、介護福祉士と併せて、福祉系三大国家資格(三大福祉士)と位置づけられています。 2、精神保健福祉士の役割 精神保健福祉士の役割は、精神障害を抱える方の生活問題や社会問題を解決するために援助をおこなうことです。具体的には、精神障害者の社会復帰や自立生活のサポートをおこなったり、相談を受けたりします。 そのため、精神保健福祉士は精神障害者の保健・福祉に、関する専門知識や技術が必要とされます、さらにそれだけでなく、冷静さ・包容力・柔軟性・忍耐力など自らの精神面の資質も必要となる専門職と言えます。 また、精神保健福祉士には倫理観について定められた文書があります。 【公益社団法人日本精神保健福祉士協会倫理綱領より】  ①精神保健福祉士の専門職としての価値を示す  ②専門職としての価値に基づき実践する  ③クライエントおよび社会から信頼を得る  ④精神保健福祉士としての価値、倫理原則、倫理基準を遵守する  ⑤他の専門職や全てのソーシャルワーカーと連携する  ⑥すべての人が個人として尊重され、共に生きる社会の実現をめざす 3、精神保健福祉士の仕事内容 先述の通り、精神保健福祉士は精神障害のある方やそのご家族の相談を受けてアドバイスをする仕事です。その相談内容は、社会復帰・生活訓練施設の紹介・就職相談などさまざまです。 就職先によって仕事内容が異なることがありますので、ここでは大きく分けて3つのカテゴリーでご紹介します。 【相談・助言】  ・医療費や生活費、減税措置などの公的支援制度の紹介  ・社会復帰に向けた障害者支援施設の紹介  ・家庭環境の改善や家族の理解を深めるための助言  ・医療機関からの退院後の住まいや就労についての提案 【日常生活訓練】  ・入院生活から退院に向けた日常生活の訓練(規則正しい生活や交通機関の利用など)  ・掃除、洗濯、買い物などの日常生活訓練  ・会話や生活マナーの訓練 【そのほかの支援】  ・休業、休学に関する手続きの援助  ・医療費確保の手続きの援助  ・家庭や学校、職場における受け入れ体制の確認  ・地域の家族会などへの参加や講習会開催など 4、精神保健福祉士の就職先 精神保健福祉士の就職先というと精神科病院など多くの方は医療機関をイメージされていると思います。もちろん多くの精神保健福祉士は医療施設で勤務していますは、ほかにもさまざまな場所で活躍しています。 【医療施設】  ・精神科病院、総合病院の精神科、精神科クリニック、医療機関併設のデイケアなど 【生活支援施設】  ・小規模作業所、グループホーム、ケアホーム、地域活動支援センターなど 【福祉行政機関】  ・精神保健福祉センター、保健所、福祉事務所、自治体など 【就労関連施設】  ・ハローワーク、障害者就労支援施設など 【司法施設】  ・保護観察所、少年院、刑務所など 【介護施設】  ・特別養護老人ホーム、介護老人保健施設、有料老人ホーム、グループホーム   デイサービスなど 【その他】  一般企業、教育施設など  同じソーシャルワーカーの資格として、精神保健福祉士は社会福祉士と混同されることがありますが、社会福祉士との違いが支援対象者です。 社会福祉士の援助対象者は高齢者、障害者、児童など福祉全分野に対して、精神保健福祉士は精神障害者に特化して援助するという違いがあります。 仕事の幅を広げたいと両方の資格を持って働く人も多くいます。精神保健福祉士と社会福祉士の国家資格では共通科目があるので、併せて取りやすい資格です。 このように、精神保健福祉士は医療施設や障害者支援施設で精神障害者とそのご家族を対象に仕事をおこなうことが中心でしたが、近年ではその活躍の場が大きく広がってきています。 うつ病や心の病などで休職中に方は約50万人にも増えていると言われています。そのため、企業ではメンタルヘルス対策に力を入れています。休職中の社員の職場復帰支援、人事部門のメンタルヘルス対応について支援やアドバイスをおこなうなど企業でのニーズも高まっています。 また、最近では障害のある子どもたちの「放課後デイサービス」でも精神保健福祉士の活躍の場があります。発達の遅れが気になる児童が増えていることもあり、精神保健福祉士を求める現場の声が高まっています。さらに児童分野では、いじめや不登校の問題に対してスクールソーシャルワーカーとして精神保健福祉士がその役割を担うこともあります。 子どもから高齢者まで多くの方と関わり、その症状もさまざまで難しさもある仕事ですが、精神に障害を抱える方や心の問題を抱えた方の人生のサポートをする大きな役割を持つ職業です。コロナ禍で膨らむストレス社会に益々需要が高まる職業として求められる仕事を言えるでしょう。     >精神保健福祉士の仕事に興味のある方はこちらへ

2020/08/21

患者への支援

精神病患者が抱える人間関係の悩み

  今回は、精神病患者が抱える人間関係の悩みについて、よくある内容をまとめます。   精神病の原因となる悩みではなく、生活していく上で関わり合う人たちとの人間関係について指しています。一般の人が同じように悩むこともあれば、精神病を患っているがゆえに悩みの種となってしまうこともあります。精神保健福祉士を目指す方は、患者の悩みについていろんな事例を知ることで将来の相談業務に役立つのではないでしょうか。     Q1、友達が欲しいです   友達が欲しいという気持ちは自然なものです。ですが、精神疾患をわかってほしい、悩みを聞いてほしい、というこちらの要望が先に立ってしまうと友情関係は成り立ちません。お互いに相手を理解して同じ時間を過ごしていきたいと思う必要があります。何かしらの精神疾患がある場合、それを自分の中で受け止め、相手のことを考えて相手を見るという余裕は必要です。   まずは少しずつ共通点のある友達を探しましょう。これまでの友達や趣味が同じ友達、同じ疾患を経験している友達を作っても良いでしょう。そういった友達を作る場は市町村区で開催されていることも多いので、精神保健福祉士が探して提供することもできます。     Q2、近所の人が悪口を言ってきます   精神病患者と近隣トラブルはたまにあることです。もし心当たりがあれば素直に謝り、関係を修復することですが、全く心当たりがない場合は難しいです。大家さんや市町村区の方、民生委員などに相談するのも方法かと思います。ご近所さんが例えば精神病患者について偏見や誤解がある場合、第三者が介入した方が話がうまくいく可能性が高いです。   患者側の問題ではなく、そのご近所さんが少し厳しい人であったり変わった人であるということも考えられます。他のご近所の方に聞いてみて、どんな風に関わっているのか相談に乗ってもらうのも良いでしょう。     Q3、親になまけていると言われてつらいです   精神疾患の治療では「休む」ということも重要な治療方法です。しかし、ご家族にその理解が得られないケースは多いようです。例えば初期のうつ症状を治すためにストレスの原因である会社を一定期間休む、といった場合、家族の理解が得られないと「もっと頑張れ」「なんとか続けながら治療できないのか」などを言われることがあります。また統合失調症の回復期では「回復したのになぜまだ休むのか」「なまけ癖がつく前に働かせないと」という声もよく聞きます。   まずは家族に正しい知識をつけてもらうことです。患者本人が説得しても良いですが、そのエネルギーが出なかったり説得が難しい場合は精神保健福祉士の出番です。正しい知識を得てもらい、一番辛いのは患者本人であること、正しい治療を正しい形で行っているということを理解してもらいましょう。     両親が死んでしまった後が不安です   これは本人のみならず家族も不安に思い、精神保健福祉士へ相談してくることの多い内容です。   まずは具体的に何が心配なのかを考えることから始めます。精神的支柱である家族がいなくなる不安、住むところやお金のこと、通院や服薬のサポートが受けられないこと、食事や料理や買い物が一人ではできないこと、漠然とした寂しさ、など理由は様々です。   支えの中心である両親がいなくなることは大きな不安ではありますが、実際細分化してみるとそれぞれ事前に対策しておけば代替案が見つかります。生活のサポートを受けたり、身の回りのことは自分でできるよう練習したりなどです。精神的支柱に関しても、兄弟や友人に頼れる人を見つけて信頼関係を結んでいくのも準備のひとつです。   住まいや金銭的なことに関しては福祉制度やサービス、医療サービスを利用できるよう検討していきます。障害があっても自立して働くことも可能です。自分らしい生活を続けていけるためにゆっくり準備をしていきましょう。

2020/08/21

精神保健福祉士の仕事

精神保健福祉士に求められる家族支援

  精神保健福祉士に求められる業務のひとつに、家族支援というものがあります。   精神保健福祉士は精神病を患った患者だけでなく、その家族とも関わる仕事です。それぞれの患者にはそれぞれの家族とその形があるため、決まった家族支援のフォーマットというものはありません。   例えば、その名の通り家族を支援する業務があります。患者が父親でその子供に病気について理解させるよう支援をしたい。もしくは母親に自宅でのサポートの仕方を指導し金銭面で行政の支援を受けられるよう案内する、などです。   また、家族が原因で患者が精神疾患を患ってしまっている場合、原因を取り除くために家族支援を行う業務もあります。患者の父親が暴力を振るうために引きこもってしまった学生であったり、母親からのプレッシャーが原因でうつ状態になってしまった子供であったりします。   このように直接的に原因となっている場合でなくても、いじめが主な原因ではあるが家族にも相談できる人や理解してもらえる相手がいない、といったケースも考えられます。いじめや過去のトラウマなどは一枚岩で解決するものではないですが、家族が支えるのは解決へのまずできる一歩です。   もしくは、患者の家族があまりに責任を負いすぎてしまい、家族自身も精神的に不安定になってしまうケースもあります。家族としての役割を大きく捉えすぎてしまい、家族が支えれば乗り越えさせることができるはずだと信じていると陥りがちです。   このように家族支援は多岐に渡りますが、今回は「問題を抱える若者とその家族への支援」に絞って精神保健福祉士が留意することを記載していきます。     問題を抱える若者とその家族への支援   ①相談を受け、受診の必要があれば勧める これは当然のように感じることかもしれませんが、家族の認識によっては受診と服薬に抵抗がある方も多いです。病名がつくことを嫌い、なかなか受診に足が向かないという理由も多いです。服薬してコントロールができる病気であればそうするに越したことはないので、誤解のないよう説明をし受診を勧める必要があります。   ②家族に依存しすぎていないか確認する 家族との関係が薄いがゆえに起こる精神疾患もありますが、逆の場合もありえます。家族への依存が大きいと、家族という世界に閉じこもってしまって外に出るのが怖くなり、他者からの評価が得られずまた家族とだけしかコミュニケーションを取らない、という悪循環が生まれます。精神疾患の原因が家族とは関係がないように思えても、根底の部分で家族依存が関わっている場合も多くあります。   ③家庭内暴力への対処 家庭内暴力について、一番は警察に通報し避難をさせることです。危険性があると判断すれば、そのように指導しましょう。また暴力に暴力で対抗することは勧めません。まだ未遂であり予防の段階であれば、できるだけ相手を刺激せず、2人きりにならないよう第三者を介入させることや、距離を取って会話をするように心がける事などの予防原則を指導します。   ④家族の中で役割を見出す これは精神疾患の段階にもよりますが、全く何もしていない状況が続くよりも何かの仕事が生活の中にあった方がやりがいに結びつくケースもあります。小さい社会である家族の中で、働く意義や責任を見出せると社会復帰への足掛かりになるでしょう。家族と話し合い、例えば新聞受けから新聞を取ってくるでも、掃除や洗濯でも構いません。些細なことでも、失敗してもいいです。それが社会活動に繋がります。     具体的な家族支援の流れ   ①家族の誰か(一般には親など,本人もあり得る)からの相談を受ける(来談・訪問) 相談者が何を問題にしているのかと、家族の関係をつかむ。   ②問題を抱える本人(本人からの相談の場合は家族の誰か)の話を聞く(来談・訪問) ①と②の相談者の違いを明らかにする。問題はそれぞれの人物の認知であり、事実の追求は意味を持つとは限らない。   ③会議を開き、問題の明確化・支援の目標設定・有効な資源の検討・アセスメントの必要性の検討・環境調整の必要性の検討を行う 初回面接の担当者の記録をもとに印象を交えて報告してもらい,必ず複数の「眼」で検討する。また,目標は「最低限クリアする」実現可能な設定を心掛ける。   ④家族に対し、③の会議で検討した支援の方向性について説明する 同意が得られる場合、具体的にスケジュールを立て本人の行動を促すように協力する体制作りを進める。支援における家族の役割をアドバイスする。 同意が得られない場合、本人・家族と支援者の信頼関係ができていないので、まずは定期的に連絡を取り信頼関係の構築に努める。   ⑤家族との相談のプロセスで会議を開き、方向性とそれぞれの役割、関わりによる変容の確認を行う 本人と家族の関係を調整しながら支援を行う。支援されるのは表面的には「問題を抱える若者本人」だが、本質は「家族全体の関係性」であるから、本人の人的環境である家族は「支援者であると同時に被支援者でもある」という視点を失わないようにする。   ⑥目標となる行動や関係性の再構築に向かう変容や方向性が見えるまでケース検討と支援を繰り返す 関係性は動的なもので完璧な解決などないため、見守りフォローする体制を維持する。  

2020/07/21

精神保健福祉士の仕事

行政分野で働く精神保健福祉士について

  精神保健福祉士の活躍できる場所は、行政分野にもあります。都道府県庁の障害福祉担当課、精神保健福祉センター、保健所、都道府県立の医療機関、児童相談所などが行政分野にあたります。   業務内容は所属機関によって様々ですが、精神保健福祉に関する知識・技術が必要とされる部署に配属されることが多いです。これは当然のように感じるかもしれませんが、近年特に重視されている動向です。厚生労働省が「精神保健医療福祉の改革ビジョン」を定め、地域生活支援の強化などを推し進めていることが背景となり、都道府県、市町村にて精神保健福祉士の活躍が期待されています。   行政で働く精神保健福祉士の大きな役割は、日本国民全体の精神保健福祉の向上です。直接の支援だけでなく、間接的に市民と協働することや、支援制度や施策を立案することも業務としてあります。     行政分野で働く精神保健福祉士の業務とは   行政分野で働く精神保健福祉士の実際の業務を、大きく分けて9つ紹介します。   ①精神保健福祉相談 ②サービス利用に関する支援 ③技術支援・助言・指導 ④調査研究・企画立案・計画策定 ⑤普及啓発 ⑥研修・組織育成 ⑦関係機関及び団体との連携・協力・連絡調整 ⑧行政機関の責務等が規定されている法令に基づく業務 ⑨精神保健福祉サービスの充実や資源定着のために行う業務   ①の精神保健福祉相談が、最も想像しやすいかもしれません。精神保健福祉の課題を抱える人に対して、問題を理解、整理し、解決へ導くことです。その解決策の中で②のサービス利用に関する支援が含まれることが多いでしょう。患者や相談者の希望を踏まえた上で、適切な社会資源を紹介するのが精神保健福祉士の仕事です。また、紹介だけでなく、利用支援と調整も行います。   ③の技術支援・助言・指導とは、精神保健福祉士の視点から、地域の支援体制の基盤強化を目指し、関係機関の位置づけや機能に応じた技術的な協力や支援及び助言や指導を行うことです。簡単に言うと②と逆で、関係機関から精神病患者の相談を受けることが主でしょう。   ④の調査研究・企画立案・計画策定においては現場で精神病患者を直接支える業務とは少し変わってきます。行政機関として、地域で求められた施策や事業の企画立案、計画策定を行います。ニーズの調査を行い、形式的なものであったり机上の空論となってしまわないよう慎重に聞き取りを重ね、福祉サービスを考えていきます。そして⑤の普及啓発の観点で、地域での交流会を企画するなど理解の促進をすることも精神保健福祉士の仕事です。   そして専門職として、精神保健福祉士の質の向上のために⑥の研修や組織育成を考えることも重要です。所属組織にもよりますが、精神保健福祉士としての確かな知識と技術、そして実務経験が求められます。また、精神保健福祉分野のみならず社会全体の動きやニーズを捉える力も必要です。   ⑦の関係機関及び団体との連携・協力・連絡調整はどの精神保健福祉士の仕事においても切り離せない業務でしょう。医療機関や福祉機関のみならず、地域のボランティアなどあらゆる諸団体との連携が求められます。   ⑧行政機関の責務等が規定されている法令に基づく業務は、想像しにくいかもしれません。これは例えば、精神科病院にて人権侵害を伴う事件が発生した場合に、法律に基づく医療機関への指導強化が急務となります。元の指導のどこが悪いのか、どう解決していくのかを、法律だけでなく精神保健福祉士の歴史や課題、権利擁護に関する専門知識に照らし合わせて考えていく必要があります。現行法では事例がない場合も多く、現行法の不備を認識し改善していく姿勢が大切です。   そして最後に⑨の精神保健福祉サービスの充実や資源定着のために行う業務とは、日本という国の精神保健福祉サービスの充実に向けて、新しい事業が定着するように将来的な施策を考え展開していくことです。国がモデル事業化した「精神障害者○○推進事業」といった事業を運用したり、改善提案を行うなどが業務です。     行政分野の精神保健福祉士が持つべき指針   いかがでしたでしょうか。一般的に想像される精神保健福祉士の仕事は精神病患者にまつわる相談業務だと思いますが、行政分野においてはさらに他の関連施設へ技術指導を行ったり国のモデル事業の改善まで業務は多岐にわたります。   そんな行政分野の精神保健福祉士が、業務を実践していく上で持つべき指針を以下に列挙します。   ・患者本人の権利の擁護と自己決定を尊重する ・患者の強みを伸ばすような視点から相談を理解する ・個人、家族、集団、地域の個別化を重視し理解する ・患者本人とその家族のニーズを把握する ・必要なサービスが途切れることを防ぐ ・患者を含む住民の多様な相談内容に対応できるよう努める ・既存の制度運用に留まらず最善の支援を考える ・ソーシャルワークの視点から施策の創設及び改善を行う ・多職種、他機関と連携し支援ネットワークを構築する ・人、地域、社会システムの全体関連性を踏まえる ・行政機関のなかでソーシャルワークの視点を定着させる    

2020/07/21

精神保健福祉士の仕事

医療分野で働く精神保健福祉士の業務とは

  精神保健福祉士の職場で代表的なものは医療機関でしょう。精神保健福祉士が所属する医療機関は、精神科病院、診療所、総合病院が中心です。精神保健福祉士としてどのように働くかは、職場によって大きく異なります。   国家資格として精神保健福祉士が生まれる前は、精神科ソーシャルワーカーとして多くの方が医療機関にて精神障害者を支えてきました。そして精神保健福祉士が国家資格となった背景には、精神障害者が精神科病院に社会的長期入院をしてしまうケースが非常に多くなってしまったことと、精神障害者の社会復帰などに対する相談業務などの専門職が必要であるという声が大きくなったことがあります。   そのため、まず医療分野で働く精神保健福祉士の大きな目標として、長期入院者の社会復帰を促すことがあります。つまりそれは地域で支えて支援できるようにすることでもあります。   医療機関で働く医師や看護師はどうしても医療行為に重きを置く専門家であるため、精神保健福祉士が地域社会との接点を多く持ち、医療機関内へとフィードバックし、地域に開かれた医療を推し進めることが求められています。   また、近年精神科には統合失調症などの患者だけでなく、うつ病や認知症、メンタルヘルスの課題を抱えた患者が増えてきています。社会的な環境の変化も、医療分野で働く精神保健福祉士は対応していかなければなりません。   医療分野における各業務において、精神保健福祉士がどのような指針を持って業務に取り組んでいくのかを解説していきます。     医療機関での受診と受療に関する支援   ・相談者の思いや希望に寄り添う ・生活者視点から情報を収集する ・社会的視点から相談者を理解する   受診においては、相談者が患者本人でないことも多くあります。家族や関係者が相談者である場合、その思いや希望にまず寄り添うようにしましょう。その上で、患者本人の生活者視点から情報を聞き、整理していく必要があります。相談者と患者が違う場合に、両者の希望や主張を混ぜて考えてしまわないようにしましょう。     生活者の情報収集と課題整理   ・患者の良いところを伸ばせるよう相談者と協力して支援を考える ・多職種によるチーム医療において福祉職としての専門性を持つ   支援を求めている場合、どうしてもマイナス要素のことから支援方法を考えてしまいがちです。しかし、重要なのは患者の良いところを引き出して伸ばしていけるように、例えば患者の夢や希望はどのようなことなのか、それを目指すためにはどう支援していくべきなのか、といった視点から考えていくことが重要です。     入院における支援   ・人権に配慮する   入院はまず、相談者の意志があっても患者の希望とは異なる場合も多々あります。その場合、まず相談者の希望を叶えられるように動きながら患者の意思決定に配慮する必要があります。そして入院においては本人はもちろん、家族や関係者も少なからず不安やストレスを感じます。それを理解し、法律や制度について柔らかく充分な説明を行い、治療と療養環境を調整することが必要です。     退院計画の立案   この業務においてはここまで見て来た、相談者の希望に寄り添うこと・患者の良いところを伸ばせるように支援を考えること・福祉職としての専門性を発揮すること、などが求められます。   特に入院生活が長い患者の場合、退院は非常に不安の多いことであり、どうしても保守的な退院計画になってしまいがちです。しかし本来は患者本人の強みや希望を取り入れ、できる限りチャレンジングなプランでも実現していけるよう工夫をするのが精神保健福祉士の仕事です。時にはチーム医療に関わる専門職全員に、直接患者の希望を届ける場を設けたり、家族や支援者にもそれが伝わるよう工夫をすることが必要となるでしょう。     グループワークの実施   ・リハビリテーションにおいて、グループメンバーの相互作用を活用する   医療分野で働く精神保健福祉士は、業務の中でレクリエーション的なイベントやリハビリテーション目的の大人数プログラムを企画することも多くあると思います。 この場合、グループ全体を見ることと、グループ内外で対人関係を築けているかどうかの把握が必要です。グループワークはグループ全体がうまくプログラムを行えるかどうかと同時に、個別支援という側面も併せ持っています。患者の能力に応じて参加を勧めたり、能力が向上できるよう支援することが大切です。     救急・急性期医療における支援   ・入院中の生活の連続性を保障する ・地域の関連機関と対等な関係を築き、支援ネットワークを作る ・制度や組織を効果的に活用し相談者を支える   救急・急性期医療での支援が求められるのは、精神科救急病棟に勤務する精神保健福祉士などです。大きな指針としては他病棟での勤務と変わらず、相談者に寄り添うことと患者の希望を聞くことなどです。その上で、これまでの生活とこれからの生活を視野に入れ、入院中であっても生活の連続性が保障できるよう心掛ける必要があります。限られた入院期間内に、退院後も地域で安心して生活していけるよう関連機関との連携が不可欠です。

2020/06/18

精神保健福祉士の役割

精神障害者の居住支援について

  精神保健福祉士の業務のひとつに、精神障害を持つ患者への居住支援があります。   これはとくに近年、厚生労働省が公表した「精神保健医療福祉の改革ビジョン」で示された、「入院医療中心から地域生活中心へ」という方針と深く関わっています。   地域生活中心にするには、住居を確保し、自分らしく暮らしていけるための支援が必要です。今回は居住支援について見ていきましょう。     1、居住支援とは   退院が可能とされていても、病院外で住む場所がなければ退院はできません。居住の場の確保を支援することは精神保健福祉士の仕事のひとつです。   まず、住まいのあり方として望まれているのは、地域コミュニティの中で安心して健康で快適に、自己実現しながら暮らせる場です。ただ住むことができる場所というだけでなく、そこに住む人の生活の質の向上を図ることが大切です。   同時に、地域が連携し日常生活圏域の形成を進め、福祉サービスなどを住み慣れた地域で十分に受けられることが理想です。この理想を目指して精神保健福祉士は居住支援を行っていきます。   まず各々の患者の状況にあった住まいを確保し、生活支援サービスやコミュニティの形成など、障害の程度に関わらずすべての人が地域で支え合う環境を構築することが求められています。     2、住まいの確保への課題   住まいの確保がうまくいかない理由は患者によって様々です。   例えば、頼れる家族がおらず、就労し賃金を稼いでいないために家賃が発生する住居を確保できない場合。これは就労が可能な状態であれば就労支援から行い、住居の確保の相談に乗ります。また、グループホームや要配慮者向けの賃貸住宅を検討することもあります。   就労しており一人暮らしが可能な状態であっても、保証人がおらず借りられない場合もあります。   そして、賃貸人に拒否されてしまうケースもあります。調査では居住制限のうち「障害者のいる世帯は不可」としている賃貸が3.1%となっています。(平成18年度/全国/日本賃貸住宅管理協会調べ)   賃貸人の拒否理由は、家賃滞納が不安であったり、根強い偏見や誤解があったり、近隣住民とのトラブルを危惧していたりなど様々です。こういった賃貸以外を探すことや交渉をすることも、精神保健福祉士が相談にのる内容のひとつです。   また、障害の程度によっては普通の住居では生活が難しく、バリアフリー化されている必要があるなど建物のハード面で条件がある場合もあります。 持ち家であれば住宅改修が可能ですが、大きな改修になればその分費用が嵩みますし、一緒に生活する家族がいれば家族の生活との擦り合わせが必要です。   そして、これが一番大きな問題かもしれませんが、患者本人の「自立して暮らしたい」という気持ちが薄くなってしまう課題があります。退院が可能な状況になっていても、一人暮らしへの不安や慣れない地域への不安があって当然です。心の準備ができるよう、体験宿泊などを通してスムーズに地域生活へ移行できるようサポートすることも居住支援です。     3、居住支援事業   居住支援の課題は多くありますが、年々見直されており、住まいに関する施策・サービスも増えてきました。いくつかご紹介します。   ①あんしん賃貸支援事業 様々な人が賃貸住宅を借りやすいように、受け入れている民間賃貸住宅の情報提供がされています。協力している不動産店は「あんしん賃貸住宅協力店」といい、ステッカーが貼ってあります。   ②家賃債務保証サービス 借主が一定の保険料を支払い、居住者が家賃を支払えなくなってしまっても代わりに立て替えを行うサービスのことです。病状が悪化するなどして、支払いが不慮の理由で遅くなってしまった場合などに有用です。しかし、保険ではなくそのお金を保証者に後日支払わなければならないため注意が必要です。実質一定期間借りられるという仕組みです。   ③住宅改修費用の助成制度 手すりの設置や段差の解消、浴室・トイレなどの改修など、障害に合わせて住まいを住みやすく改修することが必要な場合があります。この場合に受けられる費用の助成制度です。   ④障害者の相談支援事業 地域に設置されている相談支援事業です。家探しの協力や、関係機関との連携を図って日常生活をサポートする事業があります。ここで働く精神保健福祉士も多いでしょう。退院後は地域の精神保健福祉士をはじめとする支援員と連携を取り、患者をサポートしていきます。     4、居住支援が目指すもの   先に挙げたように、様々な課題があることから患者自身も退院へ前向きになれないケースも多いでしょう。   退院後に安心して健康に過ごせる住まいが作れるよう、精神保健福祉士も理想の住まいを一緒に思い描くことが大切です。   一人暮らしを始めると、自由な時間を心置きなく過ごせることや、自由に部屋を変えていけること、社会参加する場所を自分で選択して自分のペースで進められることなど、毎日が楽しく感じる患者がほとんどです。   大家さんや近所の方と良い関係が築けると、より生活が輝いていくでしょう。大きな声でゆっくり話すようにお願いをしたり、患者が苦手とするコミュニケーションをあらかじめ伝えておくなど、関係構築を円滑にする方法はたくさんあります。   病状が悪化した時のためにも退院後のアフターケアは必須ですが、このように明るい声を聞けることで精神保健福祉士のモチベーションにも繋がり、次の居住支援にも活かせます。

2020/05/19

精神保健福祉士の役割

ストレスチェック実施者としての精神保健福祉士

ストレスチェックを受けたことがあるでしょうか。   ストレスチェックとは、就労している人の心理的負担がどの程度なのかを測るために行われているもので、精神保健福祉士はストレスチェック実施者になることができます。現在働いている人は会社から義務付けられているので受けたことがあるかと思います。   今回は、ストレスチェックと精神保健福祉士の役割について見ていきましょう。   ストレスチェックとは? ストレスチェックは、労働安全衛生法の改定により制定されたものです。2015年から実施が義務付けられましたので、かなり最近のことです。50人以上の職場に年に1度のストレスチェックが義務付けられています。2015年以前から就労している人は、そういえば最近になって受けるようになったな、という印象があるかと思います。   ストレスチェックを実施できる人は医療職です。精神保健福祉士の他には、医師・保健師・看護師(厚生労働省が定める研修を終了した者)・歯科医師・公認心理士が可能です。   ストレスチェック実施者になるためには、ストレスチェック実施研修を受ける必要があります。労働者の健康管理について、メンタルヘルス対策について、健康の保持増進を図るための支援について、の大きく3つの柱について学びます。 ストレスチェックの具体的な内容 ストレスチェックで行うことは以下の2点です。   調査票の作成 一般企業や教育機関がストレスチェックの調査票を作成するわけですが、その際に精神保健福祉士も関わり、アドバイスを行います。職場によって受けるストレスは様々で、そのため高ストレスかどうかを判断する評価方法も職場や役職によって様々です。そのため各企業の仕事内容について把握し、専門知識と照らし合わせてアドバイスをする必要があります。   面談 調査票を作成し就労者に実施した後に、その結果を見て面談を行います。高ストレスとなってしまった原因はどこにあるのか、今の状況はどういったものなのかなど、調査票だけではわからないことを直接面談して判断していきます。   では、具体的には高ストレス者はどのような基準で決められているのでしょうか。   高ストレス者の数値基準   厚生労働省は、ストレス制度実施マニュアルを作成しており、そこに高ストレス者の数値基準を例として載せています。具体的な手順を解説していきます。   合計点数を使う 調査票をもとに、合計点数を算出します。この場合気を付けたいのが、調査票の質問の聞き方によっては点数が低いほどストレスが高いと評価するような質問と、点数が高いほどストレスが高いと評価するような質問が混ざってしまっているケースです。こういった質問が混ざっている場合は片方の点数を逆転させて足し合わせていく必要があります。   厚生労働省のマニュアルにおいて、数値基準の例を挙げると、領域Bの質問における最高点が116点の調査票の内容で合計点数が77点以上であると高ストレス者と選定されます。 このように、合計点数を使って基準以上の人を選定する方法です。   素点換算表を使う 厚生労働省のマニュアルにある素点換算表を使う方法です。計算の方法が複雑で、使いにくいというデメリットがあります。メリットは、質問の数の影響を排除し、尺度ごとの評価が考慮されることです。 簡単に言うとストレスの高い質問は点数が高くなるように、ストレスに該当しても比較的負担の低い質問は点数が低くなるように設定されています。より詳しい点数を出すことができます。   ストレスチェックを行う意義 なぜ、ストレスチェックが義務化されたかというと、その意義にあります。まず従業員のメンタルヘルス不調を未然に防止できるということ。精神保健福祉士としてはメンタルヘルス患者の対応にあたることが業務であるのはもちろんのこと、未然に防ぐ活動を行うことも責務としてあります。専門職として真摯に取り組みたい理由はここにあるでしょう。そして次に、企業としては職場の課題が見える化し、環境改善につながること。そしてその改善が進めば従業員の満足度向上や求人力に繋がるという点です。   このようにストレスチェックは意義のある制度ではありますが、そのために不利益が出てしまわないように留意する必要があります。それは主に守秘義務です。精神保健福祉士であれば患者の情報を他人に漏らしてはいけないことはもちろん承知だと思いますが、ストレスチェックの現場においても同様に、誰が高ストレス者でどんな不調があるのかなどが他の就労者に漏れてしまわないよう配慮する必要があります。

2020/05/18

精神保健福祉士の役割

自治体の”心の相談室”をご存知ですか。

新型コロナウイルス感染拡大やその影響でこれまでの日常生活とはまったく違った生活を送らざるを得ない状況になっています。 そのため、以前と違った生活リズムになったり、いままでできたことができなくなったり、と行動を制限させることによって大小さまざまなストレスを感じているかと思います。 この先の見えない苦しい状況がつづくなかで、自分自身、家族の心の健康についてもしっかりと見つめていかねばないないと思います。 そのため、いま、自治体はこころのケアのよりどころになる先として「心の相談室」という窓口を設けているのはご存知でしょうか。 電話相談やメール相談、LINE相談などもできる自治体もあるようです。 自治体のホームページを検索いただくと窓口があります。 あれっちょっと変だな、なんか不快だと自分自身に変化を感じた場合には活用いただくとよいかと思います。 ------------------------------- こころの健康を保ちつづけるために、 生活リズムを乱さない (早寝早起) 適度な運動や活動をする メディアから離れる(コロナから離れてみる) などに取り組むことが必要です。 また今後の懸念点として、生活リズムを戻せねばならなくなるタイミングが危険です。 我々はコロナウイルスのせいで仕事や学業、余暇の過ごし方などの生活様式が変更せざる負えないと強いられ、否応なくそれに対応をしてきました。 しかし、この生活様式を再び、もとのいままでの形に変化させることになる場合、さらなるこころとからだへのストレスが負荷となることが予想されます。 たとえば、  ・テレワークや在宅勤務から通常出勤へ戻ること  ・休業、短縮営業から通常営業時間へ戻ること  ・休校から登校開始となる学習形態の変化 など、ここ1~2か月で急激に生活様式変化をしてきたなか、再度、急激な生活スタイルの変化を求められることになります。 ひとはこのような急激な変化には強くはありません。自分が感じる以上にストレスをこころとからだは感じます。そうなると普段以上に不規則、不健康な生活習慣を定着しやすくなり、心の不健康にもつながります。 たとえば、 インターネット・SNS依存 アルコール依存 ギャンブル依存 ゲーム依存 など、ストレスを緩和するためにこれらへ依存傾向になることも多くあります。 しかしながら依存症は一度起こると自分ではコントロールがとても難しく、悪化するしかありません。 依存予兆が自分のなかで起きている、変化を感じている場合はには「こころの相談室」を訪ねてみてください。 長くなりましたが、「こころの相談室」では精神保健福祉士がおひとりおひとりのお話を聞き、その悩みの対処方法を一緒に考えていきます。

2020/04/21

精神保健福祉士の役割

保健所の仕事について知る

こんにちは。日本福祉教育専門学校です。   新型コロナウイルス感染症のニュースでよく耳にする「保健所」という相談窓口があるのはご存知かと思います。 “まずは保健所に相談してください。”と言われていますが、実際に保健所がどのような仕事をしているのかまとめてみました。   ※保健所および保健センターは、地域保険法によって設置されています。 「保健所」は広域的・専門的なサービスを実施しており、は住民の身近な保健サービスは市区町村の「保健センター」において実施されています。   1、保健所とは   保健所は、都道府県、政令指定都市、中核都市などに設置されています。 保健所には、事務職員だけでなく、さまざまな専門職が働いています。 具体的には、医師、保健師、看護師、薬剤師、社会福祉士、精神保健福祉士、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、診療放射線技師、臨床検査技師、獣医師、栄養士などです。 新型コロナウイルスのような感染症対策であったり、そのほかにも精神保健や難病対策など地域保険の重要な役割を担っています。   2、保健所の業務内容とは   保健所は、地域住民に密接な関わりのある行政窓口です。さまざまな業務がありますが、ここでは4つ紹介します。   ①母子保健 赤ちゃんが生まれて各ご家庭で育児をしているときに心強い味方です。 母子保健離乳食講習や乳幼児健康相談、3歳児健診などもお住まいのお近くの保健所や保健センターで行っています。なかには保健所内に子育て支援担当を設けて、より地域の子育て支援をサポートしてくれている保健所もあります。   ②精神保健福祉 心の病気や悩みについての相談を受け付けています。 助言や指導だけでなく、社会復帰に関する相談に応じています。国家資格である精神保健福祉士が相談援助をおこなう保健所もあります。   ③予防 保健所の大切な業務で、いままさに感染拡大している新型コロナウイルス感染症などの感染症や結核の予防に関わる業務を行っています。 最近ではエイズに関する面接相談や抗体検査も受けられるところもあります。   ④動物愛護・狂犬病予防 ペットを飼ったことがある方なら窓口に行かれたころがあると思いますが、動物愛護・狂犬病予防の観点から、登録申請の受理や鑑札の交付、狂犬病予防注射票を交付するのも保健所の仕事です。   3、国民の「健康づくり」のために 国民の健康増進をめざす保健所では、健康教室・健康相談・成人検診・各種がん検診・訪問指導・健康教育なども行っています。 また、「健康づくり」の事業では、食生活改善や運動普及促進事業も展開、「栄養改善」の事業では、栄養成分表示などの相談や指導、集団給食施設への指導もしています。 まさに、保険・健康にかかわる専門家集団が集う保健所は、「安心」のバックグラウンドがあると言えるでしょう。

2020/04/15

精神保健福祉士の役割

社会的入院と精神保健福祉士について

  「社会的入院」という言葉を知っていますか?精神医療に関わる人以外ではあまり聞きなれない言葉かもしれませんね。   社会的入院とは、必ずしも治療や退院を目指さない、長期入院のことを指します。精神病患者が、医学的には入院の必要性がないにも関わらず生活上などの都合により入院生活を続けてしまうことです。   終末医療などは含みません。単に「長い入院」という意味ではなく、医療問題・社会問題として捉えられている言葉です。   今回は、この社会的入院の問題点と日本や各国の対策について見ていきましょう。     1、社会的入院の問題点   社会的入院により、さまざまな問題が起こります。まず、長期入院することで患者の社会性や生活習慣が衰退してしまいます。これによってさらに退院しにくくなってしまうという負のスパイラルに陥ってしまうのですね。   次に、共に暮らす家族など、引き取り手側に拒否されて社会的入院が起こってしまうケースもあります。この場合は強引に退院させたとしても虐待的問題に繋がる可能性があります。   そして国単位で問題となっているのが、医療費がかかってしまうこと。   高齢化が進む日本では深刻な問題です。社会的入院は公的な医療保険が利用できるため、自宅で介護が難しい家族が小さな負担で入院させることができるのですが、これが惰性的な長期入院に繋がっています。   また次に、不必要な入院患者が増えることで新しい患者を受け入れるベッドがなくなってしまいます。救急患者の受け入れにまで影響がでてしまい、助けられる命が助けられなくなってしまうという深刻な問題に繋がっています。   そして社会的入院を防ぐことにより、まだ入院が必要であるにも関わらず退院させてしまう未完退院が起きないよう留意することも求められています。     2、社会的入院への対策   では、社会的入院の問題を解消するためにはどうしたらよいのでしょう。   まずは医療費・入院費の支払い制度について、日数制限や包括支払制度の導入などの改革が必要だとされています。 実際、ドイツの医療では社会的入院を「病院誤用」と呼び、包括払い制度などで対策を講じており、一定の成果がでています。   フランスでは、長期入院を回避するため、在宅入院制度が作られました。医療チームが連携して在宅医療・訪問診療を促進しています。   スウェーデンでは、各国に見られる制度のほか、もっと社会を大きく捉えた政策を行っています。患者という一個人から離れ、国全体で考えると、社会的入院が必要のない社会を作ればいいという考え方です。   高齢者が自宅で一人で暮らしていけるよう住環境の整備をしたり、通常生活に必要な医療や器具を充実させるなどが挙げられます。基礎的な医療の質が上がることによって、社会的入院自体がそもそも少なくなる仕組みですね。   では、日本の対策はどうでしょうか。   日本は2000年から、傷病の治療は医療機関で、要介護状態の介護はソーシャルワークで、という考え方から介護保険制度が施行されました。   また、医療機関に対しては入院が長期に及ぶと診療報酬を減額することで長期入院の抑制が図られています。ですが、あまり効果が発揮されず、社会的入院患者の病床数は多いままです。     3、精神保健福祉士ができること   ここまで国が抱える問題点や国の対策についてみてきましたが、いち精神保健福祉士ができることについて考えてみましょう。   一人の力で制度や法律を作ることはできませんが、患者さん一人ひとりと向き合っているのはそれぞれを担当している精神保健福祉士です。   まずは、患者がなぜ退院できないのか、患者に寄り添って原因を考える必要があります。例えば、社会的入院の原因の多くは「居住・支援がないため」です。   居住がないなら借りればいい、と思っても、賃貸住宅を貸し渋られてしまうケースもあります。また、定期的に精神医療を受けなければならないが、居住地域に精神科がない場合もあるでしょう。一緒に住める家族がいても、世間の偏見が根強く家族が拒否することもあるのです。   あくまでこれは一例で、経済的な課題や制度利用に関する課題など、それぞれの問題に合わせて患者をサポートします。     以下のようなことが入院中にできる精神保健福祉士の援助の一端です。   ①患者の悩みを聞き、受け入れ、共感することで不安や心配を軽減する ②退院についてと処遇改善請求の相談や利用援助を行う ③療養についての相談、援助を行う ④患者の家族へ働きかけ、調整を行う ⑤入院形態の切り替えが必要な場合には説明を行う ⑥経済的な問題の調整等、必要な援助を行う ⑦退院後の生活に向けた相談に乗る ⑧社会資源や障害福祉、介護保険サービスを紹介し、調整を行う ⑨入院~退院時の病棟カンファレンスに参加する ⑩退院前訪問をし、生活状況を見ながら訪問看護等の導入を検討する   こういった援助をそれぞれの精神保健福祉士が行うことで、一つでも多くの患者が自立して退院できるようになり、社会的入院という問題の解決に繋がっていきます。