介護福祉士の資格を持っている方で、「いつか海外で働きたい!」と思う方も多いのではないでしょうか。日本が高齢化社会であるように、先進国の多くは高齢化が進んでおり介護職の需要はあります。先進国でなくとも、介護職は医療職と同じくなくてはならない仕事ですから、需要がゼロということは考えられないでしょう。では、日本の介護福祉士が海外に行って活躍できるのでしょうか?その内容についてみていきましょう。
まず、介護にまつわる資格についてみていきましょう。日本では無資格でも介護現場で働くことができます。そして介護福祉士という国家資格が存在し、それを持っていれば介護業界では安定して就職先があると言えるでしょう。
では、この介護福祉士資格は海外でも使えるのでしょうか。答えは、いいえです。介護福祉士の資格は国家資格であり、これは日本の資格です。国際資格ではありません。そのため、介護福祉士の国家資格を持って例えばアメリカ合衆国に行ったとして、そのままアメリカ合衆国の国家資格を持った介護従事者として働けるわけではありません。つまり互換性がないんですね。
しかし、介護福祉士として有している知識や技術、経験は海外に行ってもなくなるわけではありません。端的に言うと、その国のルールにのっとってまた介護資格を得る、もしくは無資格で介護現場に就職し実務を行うことは可能です。
活躍したい国の介護事情を調べ、その国に合わせた資格や就職方法を通して活躍できる道を探しましょう。
日本以外の介護業界は一体どうなっているのでしょうか。そこで、まずは平均寿命についてみてみましょう。介護業界が主に対象としているのは高齢者ですから、どの程度需要があるのかを量る指標となります。
まずは日本のデータを見てみましょう。
国名 | 男性の平均寿命 | 女性の平均寿命 |
---|---|---|
日本 | 81.47歳 | 87.57歳 |
次に、日本より平均寿命が長い、もしくは同程度(80歳以上)の国を挙げていきます。(男性平均寿命基準)
国名 | 男性の平均寿命 | 女性の平均寿命 |
---|---|---|
スイス | 81.60歳 | 85.60歳 |
ノルウェー | 81.59歳 | 84.73歳 |
スウェーデン | 81.21歳 | 84.82歳 |
オーストラリア | 81.19歳 | 85.34歳 |
アイスランド | 80.90歳 | 84.10歳 |
イスラエル | 80.80歳 | 84.68歳 |
韓国 | 80.50歳 | 86.50歳 |
ニュージーランド | 80.48歳 | 84.06歳 |
スペイン | 80.24歳 | 85.83歳 |
イタリア | 80.14歳 | 84.69歳 |
シンガポール | 81.10歳 | 85.90歳 |
キプロス | 80.10歳 | 84.20歳 |
日本よりも平均寿命が長い国はスイス・ノルウェーのみです。介護先進国とも呼ばれますね。日本は3番目に平均寿命が長く、いかに国際的にも高齢化社会が進んでいるかがわかります。また、平均寿命が長い場合でも、少子化対策が成功している国では高齢化は日本ほど重要視されていません。
しかし、あくまで参考程度ですが、このように日本と同程度に平均寿命が長い国においては介護にまつわる仕事というのは一定以上の需要があると考えられます。
では逆に、80歳以下の国についてはどうでしょうか。80歳以下の国は上記に挙げた国以外と考えてください。医療が充実していない発展途上国であったり、戦争を近年までしていた国が多く入っており、介護後進国ともいえるでしょう。その中でも特に低い、70歳以下の国を見ていきましょう。
国名 | 男性の平均寿命 | 女性の平均寿命 |
---|---|---|
コンゴ民主共和国 | 56.50歳 | 59.70歳 |
南アフリカ | 62.50歳 | 68.50歳 |
ロシア | 66.49歳 | 76.43歳 |
ウクライナ | 66.69歳 | 76.72歳 |
インド | 68.40歳 | 71.10歳 |
フィリピン | 69.93歳 | 75.91歳 |
平均寿命が短いということは、それだけ介護を受けたい高齢者が少ないということです。認知症など、介護の必要性を感じる病気が始まる前に寿命を迎えてしまうため、介護が必要でないケースが多いです。
参照:厚生労働省「平均寿命の国際比較」
介護福祉士が海外で活躍する場合、2つのケースが考えられます。1つは介護先進国で働くこと、もう1つは介護後進国で働くことです。まずは介護先進国についてみていきましょう。
介護先進国とは前述したスイス・ノルウェー・スウェーデンなど平均寿命が高い国とざっくり認識してください。細かくは、介護をどれだけ国が推し進めているかや保険制度など各国に違いがあります。
これらの先進国で就職することは、日本で働く介護福祉士にとって非常に刺激になります。企業によっては先進国に勉強のために介護福祉士を派遣していることもあります。最先端の技術に触れることができるでしょう。
問題点もいくつかあって、例えば北欧では「ゆりかごから墓場まで」などと言われるほど、社会福祉が充実しており生まれてから最後まで国が面倒を見てくれます。そのため、私設の介護現場よりも国が提供している介護現場が圧倒的に多いのではないでしょうか。そこでまず、別の国籍を持った人間は就職しにくいことが予測されます。
また、英語力も必ずといっていいほど必要でしょう。先進国は英語が第一言語であることがほとんどで、第二言語であってもネイティブに近い発音や速度で会話がされています。
そして、近年先進国は在宅介護に力を入れています。日本もそうですが、なるべく家や地域にいる状態で介護を行うことが理想とされているんですね。在宅介護であればなおさら、英語力は必要になります。機械的にルーティン作業を行うだけの仕事にはならないので、日常会話程度ではなくしっかりと話せる必要があります。
例として、スウェーデンについてみていきましょう。スウェーデンは税率が高く、その分福祉サービスが充実しています。医療費の自己負担は18歳以下は無料ですし、最大年間1万円程度です。
前述したように在宅介護が主流となってきています。施設にいる高齢者は5%ほどと言われていますから驚きですよね。ホームヘルパーやデイケアサービス、ショートステイ、ナイトパトロールなどといった仕事があります。これらはコミューンと呼ばれる、いわば市町村区のような地域ごとに管理されています。
このようにスウェーデンでは介護現場で需要が非常にありそうですが、多くの介護職は公務員という扱いになっています。そのため、日本国籍を持った人は就職するのに苦労するかもしれません。
スウェーデンは実はずっとワーキングホリデービザがなかったのですが、2019年に協定が結ばれスウェーデンも追加されました。ワーキングホリデービザを持っていればスウェーデンで就労することができるので、これを日本で取得し、現地で就職することができます。また日本にいながらスウェーデンの求人サイトにアクセスし募集を探すこともできます。
今度は逆に、介護後進国で活躍する方法を見てきましょう。前述したように平均寿命が短く、介護という概念がない国もたくさんあります。介護が必要になる前に寿命を迎えてしまうんですね。
しかし、だからこそ日本の介護福祉士という立場を利用して、この技術を知りたい!という国は多くあります。発展途上国が発展していく中で、次の課題となるのが医療や福祉の充実だからです。医療が充実し平均寿命が延び、福祉サービスが増えていけば介護の需要もどんどん伸びるでしょう。そこで介護福祉士の知見が必要となるのです。
こういった場合、現地で介護の経験を活かすにしても、求められている資格はどちらかというとソーシャルワーカーが近いです。介助に特化した知識よりも、もっと幅広い福祉についての知見が求められます。これは現地に行ってから学んでも良いですが、できれば社会福祉士資格などを持ったうえで挑戦できるとより価値の高い海外就労になります。
介護後進国で働く道としては、JICA海外協力隊が最もわかりやすいのではないでしょうか。さまざまな技能を活かして発展途上国などに派遣に行ける団体です。募集している派遣隊に介護や福祉の仕事があるかどうかによるので、まずはホームページから調べてみましょう。
介護福祉士として海外で活躍したいと考えた時、最も困ってしまうのはビザの問題ではないでしょうか。国によって就労ビザの取り方や難易度等が違います。国によってはほぼ不可能な場所もあるでしょう。
そこで、比較的取得しやすいワーキングホリデービザを利用するのも良い方法でしょう。就労ビザよりも取得しやすく、また、ワーキングホリデービザを使って働きながら、その会社から就労ビザを発行してもらえるように取り計らうことも可能です。
ワーキングホリデーで行けるのは、オーストラリア、ニュージーランド、カナダ、韓国、フランス、ドイツ、イギリス、アイルランド、デンマーク、台湾、香港、ノルウェー、ポーランド、ポルトガル、スロバキア、オーストリア、ハンガリー、スペイン、アルゼンチン、チェコ、チリ、アイスランド、リトアニア、スウェーデン、エストニア、オランダ、イタリア、フィンランド、ラトビアの29か国です。
結構多いという印象ですよね。介護先進国であるノルウェーやデンマークもワーキングホリデービザを発行しています。2019年に29か国へと増加されたため、まだ情報が少ない状態ではありますが、日本ワーキングホリデー協会に問い合わせをして詳細を知ることができます。
ワーキングホリデービザで昔から多くの人が働きに行っているのがオーストラリアです。オーストラリアでは老齢年金という制度があり、高齢者は安心して介護が受けられるようになっています。この財源は一般の消費税などです。スウェーデン等と同じく介護は在宅が中心の流れになってきています。
オーストラリアには介護福祉士のような国家資格がないので、働くために資格を取得する必要はありません。しかし専門知識は持っている必要があるため、勉強できるコースの受講をする必要があります。
もしくはボランティアとして働くこともできます。上記のような学校に通いながら実務を行うケースも多いですね。英語力に自信がない方は介護ではなく英語の学校に通い、ボランティアで実務も続けていくということもできます。