認知症患者は高齢化社会と共に増加を続けており、高齢者の6人に1人が認知症と言われています。
その背景のもと、介護の現場では認知症ケアの知識と技術を持つことが求められています。
今回は介護福祉士が学ぶ認知症ケアについて、制度やステップをご説明していきます。
高齢者に多い認知症の症状。認知症とは、いったん正常に発達した知的機能が持続的に低下し、社会生活に支障をきたすようになった状態を指します。高齢者に多いのは『アルツハイマー型認知症』です。
症状は人によって様々で、軽い物忘れや新しいことが覚えられないといった記憶に関する症状から、暴力行為に至ってしまうなど重度の場合もあります。怒りっぽくなったり自発性が低下したりするのも認知症の症状の特徴です。
認知症だからといって全ての記憶が薄くなってしまうわけではなく、昔の記憶や長期的に行っていることなどは覚えていられるなど忘れてしまう内容も違いがあります。症状は日々変化するので、その人に対しても臨機応変なケアが必要になります。
そんな認知症患者に対して行う介護を認知症ケアと呼んでいます。認知症ケアは、認知症患者の尊厳や個性を大切にし、希望や可能性を見い出し、患者がその人らしい人生を生きていけるよう支えることを目的としています。
介護福祉士が認知症ケアについての知識と技術を身に着けることで、患者に対してよりよい介護ができるでしょう。また認知症患者だけでなく、認知症患者のご家族といった認知症患者の介護をしている人に対してもアドバイスができるようになります。
介護福祉士が学ぶ認知症ケアの第一歩は、介護福祉士になるための国家試験の勉強にあります。認知症ケアについて全く何の知識もない状態で介護福祉士になることはできません。
介護福祉士国家試験では、「こころとからだのしくみ」の領域のなかにある「認知症の理解」という科目で主に認知症と認知症ケアについて学びます。認知症について幅広く学ぶため、アルツハイマー型認知症だけに限らず脳出管性認知症やレビー小体型認知症など様々な疾患を扱います。
国家試験において「認知症の理解」は重要度がやや高い科目で、ここから10問出題されます。症状と特徴を覚えておくことはもちろん、周辺症状や介護者の関わり方も出題されます。
介護福祉士になってから、認知症ケアについてより深く学ぶこともできます。国家資格と同様に国が定めているステップアップの研修があるのでご紹介します。実施は各自治体が主導して行われます。
認知症介護のより専門的な知識と技術を体系的に学ぶことができる研修です。自治体によって細かい実施要件が違うので注意しましょう。概ね実務経験が2年程度の人が対象です。働いている施設によっては、管理者や計画作成担当者に受講を義務づけている場合もあります。試験はなく座学研修と実習が行われます。座学研修が1週間あり、実習が4週間、そしてレポート提出などを含めると1~2カ月が必要だと考えておきましょう。
前述した認知症介護実践者研修を修了して1年経ち、介護業務に5年以上携わって実務経験を積んでいる場合には、このリーダー研修を受けてよりステップアップすることができます。認知症ケアを行うケアチームのリーダーを養成する研修のため、チームリーダーやチームリーダー補佐などの役職についている方が主に対象となっています。全部で3カ月程度を要する研修内容です。
前述した認知症介護実践リーダー研修を修了した後に受けられる研修で、認知症ケアにおける最上位資格にあたります。認知症介護実践者研修などを企画・立案する指導者を育成します。講義・演習・実習を担当できる指導者を養成するため、介護や認知症ケアの学びの他に教育者としての知識も必要になってきます。さらに、地域の介護の質を向上させるため、その指導能力も求められます。
前述した3つのステップアップ研修の他にも、認知症ケアに関する研修はあります。自分の業務や得たい知識にあわせて必要な研修を考えましょう。また、民間資格も近年増加しています。
認知症に対応する介護の事業所を管理・運営していくための研修です。適切なサービスのあり方や、そこで働く介護従事者の労務管理などを学びます。認知症ケアに対する知識はもちろん、施設の管理方法についての知識を学ぶ研修なので、現時点で管理者である人やその予定である人が受講対象者です。認知症介護実践者研修を既に受けている必要があります。
小規模多機能型居宅介護事業所等の計画作成担当者又は計画作成担当者になることが予定されている人が受講対象です。こちらも認知症介護実践者研修等を修了している必要があります。
2005年に作られた認知症ケアの民間資格です。認知症ケアの専門技術士を養成します。民間資格ではありますが認知度が高く、研修とは違い資格名であることから肩書にしやすく、人気の資格です。5年間で更新の必要があるため新しい知識を有しているという証拠にもなります。
認知症ケア専門士の資格を持ってから3年以上の実務経験がある人が対象です。認知症ケアのチームのリーダーを目指すことができ、また地域の認知症ケアのアドバイザーとしても活躍できます。
介護福祉士の資格を持っていない介護従事者にとっても、認知症ケアは重要なスキルです。医療・福祉関連の資格を持っていない無資格の介護職員で認知症ケアの現場で働いている人は、最低限の認知症の知識を持つことが義務化されました。それが『認知症介護基礎研修』です。2021年の介護報酬改定で義務化され、2024年より完全移行となります。
認知症介護基礎研修は認知症患者に対する基礎知識や対応が学べる研修で、6時間のカリキュラムです。難易度は低い研修なので、義務化されましたがそこまで負担は大きくならないでしょう。
無資格の人でも受けられる民間資格もあります。以下の2つをご紹介します。
最も易しい認知症に関わる資格と言えるでしょう。受験資格はなく、誰でも受験が可能なため、介護現場に従事していない人でも受けることができます。認知症の介護をしている家族の方が受けることもありますよ。認知症の知識や対応方法、事例を知ることができます。
こちらも受験資格がなく、誰でも受講可能な資格です。認知症の方の生き方や価値観を尊重し、その人らしく生活していけるよう寄り添ったサポートを行えるよう、知識と技術を学びます。
認知症ケアについて学ぶことは多くのメリットがあります。まず大前提として認知症についての高度な知識と技術を得ることで、現場での介護業務に大いに役立つでしょう。そして介護現場のチームにもそれを還元し、指導を行うことができます。
そして認知症ケアのスキルを持つ人材は介護業界では重宝されます。特別養護老人ホームや介護老人保健施設、有料老人ホームなど、様々な介護施設にて認知症ケアのスキルを発揮することができるでしょう。そのため、就職・転職に非常に有利になります。就職しやすいだけでなく、より良い待遇が得られることもあります。
今働いている介護施設において、待遇・給与面のアップも期待できます。給与自体が高額になることや、手当がつくことも考えられるからです。認知症ケアをチームに指導することができるレベルでスキルが身に付けば、重要なポストにつくことができるかもしれません。
このように、スキルアップによるメリットは多岐に渡ります。介護福祉士として現場で活躍していくのであれば、認知症と認知症ケアのスペシャリストを目指しましょう!