【授業レポート】失語症当事者による特別講演を実施しました | 言語聴覚療法学科

こんにちは!日本福祉教育専門学校です。

12月13日(土)、言語聴覚療法学科のにて、失語症当事者であり、猪狩失語症研究所 代表の猪狩健夫様をゲストにお迎えし、特別講演を行いました。

本講演は、教科書や講義だけでは学ぶことが難しい「当事者の視点」から、失語症や高次脳機能障害と向き合う現実、そして回復の過程で何が支えになったのかを直接語っていただく、貴重な学びの機会となりました。

IT業界の第一線で活躍していた日々

猪狩様は、約25年間にわたりIT業界で活躍されてきました。プログラマーからシステムエンジニア、プロジェクトマネージャへとキャリアを重ね、大手精密機器メーカーの次期システム開発においてプロジェクト統括を担うなど、責任ある立場で数々のプロジェクトを成功へ導いてきました。

「どんなに大変でも、プロジェクトは一番ワクワクして、一番楽しく、一番勉強になった」

当時をそう振り返りながら、仕事に全力で向き合っていた日々や、仲間と成果を分かち合えた喜びについて語られました。

突然の発症 ― 全失語症と右半身麻痺

2013年2月、42歳のときに脳梗塞を発症。救急搬送され、医師から家族へ告げられたのは、

  • 言語中枢にも障害が及んでおり、会話は困難
  • 携帯電話の操作もできない
  • 車いす生活になる可能性もある

という厳しい現実でした。診断は全失語症と右半身麻痺、さらに注意障害や記憶障害などの高次脳機能障害も伴っていました。

社長として会社に復帰した後も、「話したい言葉が出てこない」「聞いた言葉がすぐ消えてしまう」「集中できず、ぼーっとしてしまう」など、コミュニケーションの壁に直面します。意思決定はおろか、議論や討論すら思うようにできず、強い劣等感や無力感に苛まれたといいます。

「生きる気力」を失いかけた経験

猪狩様は当時の心境について、

「ネガティブな感情や怒り、悲しみが無意識に湧き上がり、何事にもあきらめの気持ちが強くなっていった」

と率直に語られました。

失語症そのものの苦しさだけでなく、高次脳機能障害によって生じる“見えにくい生きづらさ”が、精神的に大きな負担となっていたことが伝わってきます。

それでも、今こうして話している

しかし現在の猪狩様は、車いすも杖も使わず、友人と笑顔で食事をし、人前で講演を行っています。現在は軽度のブローカ失語と右半身麻痺が残るものの、「至って元気です」と力強く語られる姿が印象的でした。

「回復を約束することはできない。でも、自分の復活経験なら伝えられる」

医師や専門職ではないからこそ、当事者として語れる言葉がある。その経験にこそ価値があると気づいたことが、講演活動を続ける原動力になっているそうです。

講演を通して学生が向き合ったのは、失語症という障がいそのものではなく、その先にある「生活」や「思い」でした。

言葉が思うように使えなくなったとき、仕事や人間関係、そして自分自身への評価がどのように揺らぐのか。当事者の語りから、支援の場面で起こり得る戸惑いや葛藤を、より現実的に想像する時間となりました。

猪狩様、実体験を通じた貴重なお話をありがとうございました!

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