精神保健福祉士の扱う精神疾患では、同じ病名だとしてもその原因や背景は人それぞれ違います。例えば過重労働やリストラによってうつ病になってしまった男性と、いじめにより不登校になりうつ病と診断された男児では、支援方法や解決策は全く違ったものになります。
今回は、子どもと精神保健福祉士の関わりについて見ていきましょう。
1、子どものメンタルヘルス課題
子どもに多い精神疾患と言うと、思春期のいじめによる不登校や引きこもりなどが浮かびます。その他にも、精神保健福祉士が対応すべき子どもの事例はたくさんあります。うつ病などと診断される前段階のメンタルヘルス課題について、成人するまでのライフサイクルを追っていきます。
①胎生期
・母体に加わる有害因子(アルコール・薬物)
・マタニティブルー
・産褥期
②乳幼児期
・親による虐待、ネグレクト
・育児不安
③学童期
・学校への不適応、行動異常
・不登校
・心身症
・いじめ、非行
・ADHD
④思春期
・不登校
・家庭内暴力
・校内暴力
・ひきこもり
・自殺企図
・神経性食欲不振
・社会性逸脱行動
代表的にとらえられる学童期のいじめや思春期の不登校以外にも、メンタルヘルスの課題はたくさんあります。
対応機関は保健所・精神保健福祉センター・市町村保健センターがベースとしてあり、症状によっては医療機関に相談する必要があります。また児童の場合は児童相談所、学童期の場合は学校など、ライフサイクルの段階に合わせて機関も変わります。
精神保健福祉士は、医師・保健師・看護師・教師・スクールカウンセラー・臨床心理士・産業医など多岐に渡る他職種と共に対応していきます。
2、スクールソーシャルワーク
義務教育中の子どものメンタルヘルス課題については、スクールソーシャルワーカーが学校をベースに支援していく場合が多いです。
スクールソーシャルワーカーは、子どもの課題であるいじめや不登校、発達障害、非行やゲーム依存などに対応します。原則として精神保健福祉士・社会福祉士・臨床心理士のいずれかの資格を取得した上で、正職員として学校に勤務する場合にはスクールソーシャルワーカーとしての教育課程を修了し公務員採用試験に合格する必要があります。
スクールソーシャルワーカーは、自らの力で問題の解決を図れるように支援していきます。それは問題に対して直接的にアプローチするだけではありません。例えば不登校の児童に対し、原因がいじめと見られる場合でも、子どもの家庭環境や過去のメンタルヘルス問題との交互関係がないかを見ていく必要があります。家庭の貧困や虐待、親の精神疾患や認知症など、問題が根深いほど長期的な支援が必要です。
思春期のこころの発達
思春期のメンタルヘルス課題を考える上で、こころの発達がどういった要因で構成されているのかを知っておく必要があります。先ほど挙げたように、不登校の原因がいじめだけでなく現在の家庭の問題や過去の虐待などが複合的に絡み合っている場合があるからです。要因は大きく4つに分けられます。
①社会
社会システム・価値観・流行など
②帰属集団
地域特性・学校文化・仲間集団など
③家庭環境
社会経済状態・親の養育機能・親の性格傾向など
④発達
身体的特性・認知的特性・発達課題など
社会や学校、仲間、家族と密接に関わり合いながら一人の人間として自我を確立していきます。確立すると「自分は自分、他人は他人」という感覚が育ちます。その感覚ができる前に、仲間関係や親とトラブルになってしまうとこころの発達に重大な影響を及ぼします。
また、見落としがちなのは④の発達です。周りと違う身体的特性に悩んだり、性の問題を誰にも打ち明けられない子どもは多くいます。
精神疾患を持った親の子どもとの関わり
精神保健福祉士が関わる子どもは、子ども自身が患者の場合だけではありません。精神疾患を持った母親・父親の子どもと関わることも多くあります。むしろ、スクールソーシャルワーカーや児童養護施設などで働く場合を除けば、患者の子どもとして関わる方が主だという精神保健福祉士も多いのではないでしょうか。
精神保健福祉士は患者の家族もサポートしていく仕事です。それは子どもも含まれます。親がどんな病気なのか、安心して話せる場を提供することもそのひとつでしょう。
子どもは親から病気について説明されていなかったり、説明されていても不調や症状についてうまく理解ができない場合があります。また、理解ができず混乱するだけでなく自分自身に原因があるのではないかと自分を責めてしまう子どももいます。
子どもは親のことで困ったとき、周りに相談ができません。スクールソーシャルワーカーやスクールカウンセラーは学校での問題に関して相談するところだと思い込んでいて、家庭について話しをしない子どもも多いのです。
そういった場合、精神保健福祉士の方から子どもの相談に乗ることが大切です。親が精神疾患について診察している間に相談室で世間話をするだけでも価値があります。何かわからないことがないか、困っていることはないか、見過ごさずに話しかけていく姿勢が精神保健福祉士には求められています。