社会的入院と精神保健福祉士について

vol6
 
「社会的入院」という言葉を知っていますか?精神医療に関わる人以外ではあまり聞きなれない言葉かもしれませんね。
 
社会的入院とは、必ずしも治療や退院を目指さない、長期入院のことを指します。精神病患者が、医学的には入院の必要性がないにも関わらず生活上などの都合により入院生活を続けてしまうことです。
 
終末医療などは含みません。単に「長い入院」という意味ではなく、医療問題・社会問題として捉えられている言葉です。
 
今回は、この社会的入院の問題点と日本や各国の対策について見ていきましょう。
 
 
1、社会的入院の問題点
 
社会的入院により、さまざまな問題が起こります。まず、長期入院することで患者の社会性や生活習慣が衰退してしまいます。これによってさらに退院しにくくなってしまうという負のスパイラルに陥ってしまうのですね。
 
次に、共に暮らす家族など、引き取り手側に拒否されて社会的入院が起こってしまうケースもあります。この場合は強引に退院させたとしても虐待的問題に繋がる可能性があります。

 

そして国単位で問題となっているのが、医療費がかかってしまうこと。
 
高齢化が進む日本では深刻な問題です。社会的入院は公的な医療保険が利用できるため、自宅で介護が難しい家族が小さな負担で入院させることができるのですが、これが惰性的な長期入院に繋がっています。
 
また次に、不必要な入院患者が増えることで新しい患者を受け入れるベッドがなくなってしまいます。救急患者の受け入れにまで影響がでてしまい、助けられる命が助けられなくなってしまうという深刻な問題に繋がっています。

 

そして社会的入院を防ぐことにより、まだ入院が必要であるにも関わらず退院させてしまう未完退院が起きないよう留意することも求められています。
 
 
2、社会的入院への対策
 
では、社会的入院の問題を解消するためにはどうしたらよいのでしょう。
 
まずは医療費・入院費の支払い制度について、日数制限や包括支払制度の導入などの改革が必要だとされています。
実際、ドイツの医療では社会的入院を「病院誤用」と呼び、包括払い制度などで対策を講じており、一定の成果がでています。
 
フランスでは、長期入院を回避するため、在宅入院制度が作られました。医療チームが連携して在宅医療・訪問診療を促進しています。
 
スウェーデンでは、各国に見られる制度のほか、もっと社会を大きく捉えた政策を行っています。患者という一個人から離れ、国全体で考えると、社会的入院が必要のない社会を作ればいいという考え方です。
 
高齢者が自宅で一人で暮らしていけるよう住環境の整備をしたり、通常生活に必要な医療や器具を充実させるなどが挙げられます。基礎的な医療の質が上がることによって、社会的入院自体がそもそも少なくなる仕組みですね。

 

では、日本の対策はどうでしょうか。
 
日本は2000年から、傷病の治療は医療機関で、要介護状態の介護はソーシャルワークで、という考え方から介護保険制度が施行されました。
 
また、医療機関に対しては入院が長期に及ぶと診療報酬を減額することで長期入院の抑制が図られています。ですが、あまり効果が発揮されず、社会的入院患者の病床数は多いままです。

 
 
3、精神保健福祉士ができること
 
ここまで国が抱える問題点や国の対策についてみてきましたが、いち精神保健福祉士ができることについて考えてみましょう。
 
一人の力で制度や法律を作ることはできませんが、患者さん一人ひとりと向き合っているのはそれぞれを担当している精神保健福祉士です。
 
まずは、患者がなぜ退院できないのか、患者に寄り添って原因を考える必要があります。例えば、社会的入院の原因の多くは「居住・支援がないため」です。
 
居住がないなら借りればいい、と思っても、賃貸住宅を貸し渋られてしまうケースもあります。また、定期的に精神医療を受けなければならないが、居住地域に精神科がない場合もあるでしょう。一緒に住める家族がいても、世間の偏見が根強く家族が拒否することもあるのです。
 
あくまでこれは一例で、経済的な課題や制度利用に関する課題など、それぞれの問題に合わせて患者をサポートします。

 
 
以下のようなことが入院中にできる精神保健福祉士の援助の一端です。
 
①患者の悩みを聞き、受け入れ、共感することで不安や心配を軽減する

②退院についてと処遇改善請求の相談や利用援助を行う

③療養についての相談、援助を行う

④患者の家族へ働きかけ、調整を行う

⑤入院形態の切り替えが必要な場合には説明を行う

⑥経済的な問題の調整等、必要な援助を行う

⑦退院後の生活に向けた相談に乗る

⑧社会資源や障害福祉、介護保険サービスを紹介し、調整を行う

⑨入院~退院時の病棟カンファレンスに参加する

⑩退院前訪問をし、生活状況を見ながら訪問看護等の導入を検討する

 

こういった援助をそれぞれの精神保健福祉士が行うことで、一つでも多くの患者が自立して退院できるようになり、社会的入院という問題の解決に繋がっていきます。

※こちらの記事は入学検討者向けに掲載しているため、簡易的な説明となっております。
転載・流用はご遠慮ください。

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