精神保健福祉士の業務のひとつに、精神障害を持つ患者への居住支援があります。
これはとくに近年、厚生労働省が公表した「精神保健医療福祉の改革ビジョン」で示された、「入院医療中心から地域生活中心へ」という方針と深く関わっています。
地域生活中心にするには、住居を確保し、自分らしく暮らしていけるための支援が必要です。今回は居住支援について見ていきましょう。
1、居住支援とは
退院が可能とされていても、病院外で住む場所がなければ退院はできません。居住の場の確保を支援することは精神保健福祉士の仕事のひとつです。
まず、住まいのあり方として望まれているのは、地域コミュニティの中で安心して健康で快適に、自己実現しながら暮らせる場です。ただ住むことができる場所というだけでなく、そこに住む人の生活の質の向上を図ることが大切です。
同時に、地域が連携し日常生活圏域の形成を進め、福祉サービスなどを住み慣れた地域で十分に受けられることが理想です。この理想を目指して精神保健福祉士は居住支援を行っていきます。
まず各々の患者の状況にあった住まいを確保し、生活支援サービスやコミュニティの形成など、障害の程度に関わらずすべての人が地域で支え合う環境を構築することが求められています。
2、住まいの確保への課題
住まいの確保がうまくいかない理由は患者によって様々です。
例えば、頼れる家族がおらず、就労し賃金を稼いでいないために家賃が発生する住居を確保できない場合。これは就労が可能な状態であれば就労支援から行い、住居の確保の相談に乗ります。また、グループホームや要配慮者向けの賃貸住宅を検討することもあります。
就労しており一人暮らしが可能な状態であっても、保証人がおらず借りられない場合もあります。
そして、賃貸人に拒否されてしまうケースもあります。調査では居住制限のうち「障害者のいる世帯は不可」としている賃貸が3.1%となっています。(平成18年度/全国/日本賃貸住宅管理協会調べ)
賃貸人の拒否理由は、家賃滞納が不安であったり、根強い偏見や誤解があったり、近隣住民とのトラブルを危惧していたりなど様々です。こういった賃貸以外を探すことや交渉をすることも、精神保健福祉士が相談にのる内容のひとつです。
また、障害の程度によっては普通の住居では生活が難しく、バリアフリー化されている必要があるなど建物のハード面で条件がある場合もあります。
持ち家であれば住宅改修が可能ですが、大きな改修になればその分費用が嵩みますし、一緒に生活する家族がいれば家族の生活との擦り合わせが必要です。
そして、これが一番大きな問題かもしれませんが、患者本人の「自立して暮らしたい」という気持ちが薄くなってしまう課題があります。退院が可能な状況になっていても、一人暮らしへの不安や慣れない地域への不安があって当然です。心の準備ができるよう、体験宿泊などを通してスムーズに地域生活へ移行できるようサポートすることも居住支援です。
3、居住支援事業
居住支援の課題は多くありますが、年々見直されており、住まいに関する施策・サービスも増えてきました。いくつかご紹介します。
①あんしん賃貸支援事業
様々な人が賃貸住宅を借りやすいように、受け入れている民間賃貸住宅の情報提供がされています。協力している不動産店は「あんしん賃貸住宅協力店」といい、ステッカーが貼ってあります。
②家賃債務保証サービス
借主が一定の保険料を支払い、居住者が家賃を支払えなくなってしまっても代わりに立て替えを行うサービスのことです。病状が悪化するなどして、支払いが不慮の理由で遅くなってしまった場合などに有用です。しかし、保険ではなくそのお金を保証者に後日支払わなければならないため注意が必要です。実質一定期間借りられるという仕組みです。
③住宅改修費用の助成制度
手すりの設置や段差の解消、浴室・トイレなどの改修など、障害に合わせて住まいを住みやすく改修することが必要な場合があります。この場合に受けられる費用の助成制度です。
④障害者の相談支援事業
地域に設置されている相談支援事業です。家探しの協力や、関係機関との連携を図って日常生活をサポートする事業があります。ここで働く精神保健福祉士も多いでしょう。退院後は地域の精神保健福祉士をはじめとする支援員と連携を取り、患者をサポートしていきます。
4、居住支援が目指すもの
先に挙げたように、様々な課題があることから患者自身も退院へ前向きになれないケースも多いでしょう。
退院後に安心して健康に過ごせる住まいが作れるよう、精神保健福祉士も理想の住まいを一緒に思い描くことが大切です。
一人暮らしを始めると、自由な時間を心置きなく過ごせることや、自由に部屋を変えていけること、社会参加する場所を自分で選択して自分のペースで進められることなど、毎日が楽しく感じる患者がほとんどです。
大家さんや近所の方と良い関係が築けると、より生活が輝いていくでしょう。大きな声でゆっくり話すようにお願いをしたり、患者が苦手とするコミュニケーションをあらかじめ伝えておくなど、関係構築を円滑にする方法はたくさんあります。
病状が悪化した時のためにも退院後のアフターケアは必須ですが、このように明るい声を聞けることで精神保健福祉士のモチベーションにも繋がり、次の居住支援にも活かせます。