覚せい剤や大麻などの違法薬物が、社会問題として大きく取り上げられています。
違法薬物の使用自体が犯罪であり、人生を壊してしまうほどのパワーがあることはわかっているのに、使用してしまうのではなぜでしょうか?
1、薬物依存症とは?
WHO(世界保健機関)が提唱した依存症の概念では、「精神に作用する化学物質の摂取やある種の快感、高揚感をともなう特定の行為をくり返し行った結果、それらの刺激を追い求める行動が優位になり、その刺激がないと不快な精神力、身体的症状を生じる精神的、身体的、行動的な状態のこと」とされています。
依存症は、「脳の病気」であり、「こころの病気」ともいえます。
「薬物」は覚せい剤や大麻などの違法な薬物や危険度ドラックだけでなく、医師から処方される薬や市販されている薬に依存してしまうケースもあります。
薬物を激しく求めるよう脳の中枢神経に作用し、脳の回路が快楽状態を続ける状態になってしまうので、本人の意思で薬物をやめることはほとんどできません。
回復には、時間をかけて自分と向き合い、場合によっては過去のトラウマを克服することで、依存症からの回復ができるということが実証されるなど、とても苦しい病気であるともいえるのではないでしょうか。
2、薬物とその効果
薬物依存症で問題となる薬物は多くありますが、ここではおもに3つに分けて説明します。
①覚せい剤
覚せい剤で問題になるのは、依存の強さと精神状態の出現です。
覚せい剤を使用すると、精神を興奮させ、気分が高揚したりします。また、疲れがとれたり、集中力がつく感じがします。その効果は個人差にあって、最初から感じる人もいれば、はじめは不快だったのに数回使っていくうちに快感に変わり、やめられなくなる場合が多いのです。
精神状態は使用してすぐに出現して消えていくものや、数週間・数カ月と続き、時には数年続く後遺症となってしまうこともあります。
後遺症には幻覚妄想、不安感、激しい感情の移り変わりなどが起きるため、日常生活が困難になります。断薬しているときにさえフラッシュバックが起こり、強いストレスや不眠がきっかせとなり覚せい剤を使用しているときと同じ症状が出現してしまうこともあります。
②大麻
大麻がタバコのように紙に巻いたり煙で吸ったり、パイプのようなものを使って煙を吸うなどの方法で使用されます。
大麻の作用は、浮遊感や幻覚などの感覚の変化です。不安感を取り除き、気持ちを落ち着かせるなどの抑制作用があるため、依存症になりやすい薬物です。
大麻の薬物依存症者の間では、他の薬物を比べて安全と思われていることもあるようですが、実際には幻覚や妄想などの後遺症がおきる薬物です。
日本では麻薬に指定されている薬物なので、大麻使用は厳重に処罰されます。
薬物を使うきっかけが大麻からはじまり、最初が仕事のパフォーマンスが上がったり、集中力も高まったりして、最高の道具として使っていたけれど、いつしか大麻がやめられなくなり、対人関係や経済的なトラブルを抱えて苦しくなり、ついには覚せい剤に手を出してしまうといった薬物依存へのきっかけになることも多いのです。
③MDMA
MDMAはエクスタシーとも呼ばれ、その作用は幻覚・興奮状態になることです。
錠剤のため簡単に服用できるため、とくに若者に使用されることが多いのも特徴です。
MDMAはその作用が切れるとひどい倦怠感や不安感に襲われたり、長期で使用し続けると錯乱状態に陥る場合もあります。
また、肝臓や心臓の機能不全が起こるなど体への影響も及ぼす薬物です。
この薬物も使用を止めているときもフラッシュバックが起き、使用している時のような幻覚に襲われる場合があります。
3、薬物依存の症状
薬物依存の症状には、精神面と社会面の2つの症状があります。
①精神面
◆本人
・食事や睡眠を取らず、痩せていくこともある。
・強烈な妄想を抱き、暴力的な言動をおこなう。
・過剰摂取によって心身的ダメージが強く、命に関わることがある。
◆周囲から見た変化
・イライラしている。
・気分がコロコロ変わる。
・落ち着きがない。
②社会面
精神や身体の影響を受け、家庭や仕事先など社会的な信用を失い、孤立してしまうこともある。
また違法薬物自体も違法であり犯罪のため逮捕されるが、ほかにも薬物を使用したことにより窃盗や傷害などの犯罪を犯し逮捕されることもある。
社会からどんどん遠ざかっていく感覚から自分を責め、自殺をはかってしまうケースもある。
4、依存症からの回復・治療について
このように、薬物依存症は命の危険にもかかわる「病気」です。
本人や家族に治療が必要であることを理解してもらい、中毒症状の治療と断薬を続けていくためのサポートが必要です。
薬物依存症の患者には、脱慣期とされる入院治療をおこなうことが多くあります。
そして退院して間もない時期は、薬物への再使用をする可能性が高い時期です。
そのため、退院後もしばらくは外来で通院を続ける方が良いとされます。
また、治療は通院だけでなく、規則正しい生活も大切となります。
自助グループやデイケアなどを活用して、日中も薬物に手をだしてしまわないようにスケジュールを組みことも大切です。ともに回復していく仲間と、信頼できる医師、精神保健福祉士、弁護士などの専門家と連携していくことも重要です。
①薬物依存症治療をおこなっている病院やクリニックなど専門医療機関の受診
②自助グループと呼ばれる依存症当事者ミーティングへの参加
③精神保健福祉センターや保健所などがおこなっている薬物依存症回復支援プログラムへ参加
④民間カウンセリングルームの利用
⑤民間の依存症回復支援施設の利用
このように、薬物依存症は「病気」です。
ただし、回復しない病気ではありません。
回復への道のりは短くはありません。
薬物という依存対象を使わない日々のなかで浮き彫りになる自分自身の「生きづらさ」に向き合い、もしかすると自身の生き方そのものを変える必要が出てくるかもしれません。
本人はもちろん、周りにいる家族、友人、仕事関係者も多岐に渡って影響があるでしょう。
本人の体だけでなく、そのこころも社会的な部分も壊れていくのが薬物依存症です。
依存症は、薬物を止めていても、また再び使用すれば再発します。
回復していくによって、「薬物を止め続けていく」ことで、依存症になる前よりも、よりよい生活と人生を送っていただきたいと願います。