社会との接点がないまま長期間に渡って家庭に留まるひきこもりが問題になっています。職場や学校での人間関係がうまくいかずひきこもってしまうケースが多いのですが、最近では精神疾患によるひきこもりも増えています。ひきこもりになってしまう理由と、ひきこもりの社会復帰を支援する精神保健福祉士の役割について紹介します。
ひきこもりとは、学校や仕事に行かず、家族以外の人と交流をしないまま、長期間に渡って家にひきこもっている状態のことを言います。厚生労働省が公表した「ひきこもりの評価・支援に関するガイドライン」では、6ケ月以上の間、家に留まり続けている状態を、「ひきこもり」と定義づけています。
ひきこもりの原因は人によって様々ですが、上記のガイドラインの定義では、統合失調症などの精神疾患によるものとは区別されています。平成26年度版の「子供・若者白書」による調査では、ひきこもりの原因には以下のものがあります。
ひきこもりになったきっかけ
・職場になじめなかった…23.7%
・病気…23.7%
・就職活動がうまくいかなかった…20.3%
・不登校(小学校・中学校・高校)…11.9%
・人間関係がうまくいかなかった…11.9%
・大学になじめなかった…6.8%
・受験に失敗した(高校・大学)…1.7%
・その他…25.4%
きっかけとしては、いじめや人間関係がうまくいかないこと、就職活動の失敗、成績の低下や受験の失敗などの挫折体験が多いようです。きっかけがよく分からないケースも見受けられます。また、原因は一つに限らず複数の原因が重なることもあり、家庭に留まる状態がしだいに長期化し、ひきこもりにつながることもあります。最近では、ひきこもりが長引く背景には、発達障害も関係している場合もあるという報告もあります。家族としては、ひきこもりの原因が気になり、「どうして」と突き止めたくなるでしょう。しかし、原因を探すことに多くの時間を費やすよりも、ひきこもりから一日も早く抜け出すための支援を優先する方が大切ではないでしょうか。
※参考:「ひきこもりと発達障害」(福島学院大学 大学院付属心理臨床相談センター 心理内科 星野仁彦医師)
厚生労働省の「ひきこもりの評価・支援に関するガイドライン」では、ひきこもりは精神疾患とは別のものと定義されています。しかし、ひきこもる状態には、精神疾患と関係があるケースも考えられます。ひきこもりから早く抜け出そうと努力しても、精神疾患の治療や支援を行わない限り解決できないこともあります。したがって、ひきこもりが長期化する場合、精神疾患による何らかの原因が隠れているのではと注意を払う必要があります。精神疾患の可能性があるパターンとしては以下の3つです。
統合失調症にかかっているにも関わらず、そのことに全く気づかずに見過ごされているケースがあります。統合失調症とは、幻覚や妄想の症状がある精神疾患のことですが、単なるひきこもりと誤解されることが多いので、早期に精神科に相談する必要があります。統合失調症かどうかを見分けるポイントとして、(1)うつ状態であること(2)感情の起伏が少なくなることの2つがあります。また、統合失調の治療は、薬物治療を行いながらリハビリテーションを行います。
発達障害とは、生まれつきの脳機能の障害による学習障害や自閉症などの症状を言います。発達障害を持つ人が、その特性を理解しないまま、社会環境に適合できずにひきこもりになる状態もあります。例えば、学習障害のある人が、学校での勉強のつまずきに挫折感を味わい、ひきこもりになるなど、ひきこもる人の中にも発達障害が隠れていることに気づかない家族もいると考えられます。発達障害の場合は、様々な社会的支援が受けられますので、各自治体にある発達障害者支援センターに相談してみるとよいでしょう。
長期間のひきこもりや孤立から、二次障害的に精神疾患の症状が現れることもあります。本当はひきこもりから抜け出したいのに、近所の人の目を気にするあまり、ますますひきこもるケースがあります。この状況が心身に悪い影響を与え、対人恐怖症、被害妄想、うつ病などをひき起こしてしまい、ひきこもりから抜け出すことをより困難にします。
近年ではひきこもりの高齢化が問題にもなっており、社会との交流がない状態が長期化し、つらい思いをする当事者や家族が数多くいます。こうした状況を受けて、現在では、ひきこもりの社会復帰に向けた精神保健福祉士による公的支援も増えてきました。家族だけで解決しようとせず、公的な相談機関を積極的に活用することで、ひきこもりから抜け出す可能性が高まります。公的機関や相談できる窓口をいくつか紹介します。
・ひきこもり地域支援センター
ひきこもり地域支援センターは、厚生労働省による、ひきこもりに特化した専門的な第一次相談窓口です。全国各都道府県や、政令指定都市に設置されており、精神保健福祉士や臨床心理士、社会福祉士などがひきこもり支援コーディネーターとして、対象者の状況に応じて適切な機関につなぐなど社会復帰を支援します。
・精神保健福祉センター
精神保健福祉センターは、精神障害者の福祉増進を図るために設置された機関です。各都道府県または政令指定都市に設置されており、精神保健福祉士や保健師、心理士などの専門職員が、心の健康の保持や向上及び精神障害者の社会復帰の支援を行っています。
・保健所
地域の保健所でもひきこもりの相談支援を行っています。精神保健福祉士や保健師、医師などの専門家が電話や直接面談で相談に応じています。また、相談者の要望によっては、保健師が家に訪問して相談に応じる場合もあります。
ひきこもりは法律の定義上、精神疾患と区別されているものの、実際は精神疾患との何らかの関係でひきこもるケースや、ひきこもることによって精神疾患を引き起こしてしまう場合もあります。国や自治体によるひきこもりの社会復帰を支援する施設でも、精神保健福祉士の役割は今後ますます重要になっています。