言語聴覚士の対象分野には「摂食・嚥下」、「成人言語・認知」、「発声・発語」、「小児言語・認知」、「聴覚」があります。そのうちの「聴覚」の分野では、新生児の聴覚スクリーニング検査や高齢者の補聴器・人工内耳の装着リハビリなどをおこなっています。ここでは聴覚分野の概要や、聴覚分野の言語聴覚士の現状を見ていきましょう。
聴覚分野を専門とする言語聴覚士は、言葉や音の「きこえ」に障害がある方、または心配がある方の治療や社会復帰を目指したサポートをすることが仕事です。多くの場合、「ことば」を聞き分けるコミュニケーションからおこなっていきます。
後天的な障害であれば、どういう口の動きをしてどのように息を吐けば思い通りの言葉を発することができるという感覚を知っています。しかし、生まれつき聴覚に障害がある方は、その感覚が分からないために、言語の発達障害も起こっていることも多くあります。
いずれにしても、患者さん個人に適したさまざまなアプローチの方法を考えながら継続的にサポートしていく仕事になりますので、根気よく患者さんと向き合っていくことが必要になります。
聴覚分野を対象とする言語聴覚士は、需要に対して圧倒的に数が少ないという現状があります。全体に対して約10%程度という数字が出ています。これは有資格者のうち言語聴覚士協会に所属する正会員18,544人に対する、聴覚分野での就業者数2,082名という数字から算出しています。(令和2年3月現在)
しかし、今後は高齢者の数が増えてきている日本において、補聴器や人工内耳装置を求める患者はどんどん増えていくでしょう。もちろん、それだけではなく、きこえに関してのリハビリが必要な患者も増えてくるはずです。そのため、聴覚分野の言語聴覚士は活躍の場が広がることが予想されます。
聴覚分野を専門とする言語聴覚士を増やすことが課題ではありますが、それと同時に聴覚へのリハビリに関して日本社会全体の問題意識を向上させていく必要もあります。患者自身が「年を取ったら難聴になるもの」と諦めていたり、補聴器などを使用せず放置しているといった現状とも向き合うことが重要になっていくでしょう。
聴覚障害を対象とする言語聴覚士は、具体的にどういった機関に所属しているのでしょうか。日本言語聴覚士協会の会員数と施設数のデータを見てみましょう。
・病院(耳鼻咽喉科) 会員数150人・施設数98
・クリニック(耳鼻科・小児科) 62・45
・補聴器業者 16・16
・難聴児通園 33・12
・療育施設(小児全般) 286・147
・学校(特別支援学校等)※1 59・53
・病院(リハ科等)※2 1,004・601
・介護保険事業所など 81・79
・養成校※3 122・76
・その他(相談など) 54・47
・所属なし 150
※1:難聴児の療育を含む
※2:国公立大学附属病院ではリハ部に所属する場合あり
※3:養成校にクリニック所付属する場合もあり
出典:「聴覚障害領域における言語聴覚士の役割」(日本言語聴覚士協会)(令和元年5月)
この数字を見ると、会員数の最も多い所属機関は病院のリハビリテーション科等ということがわかります。次いで小児全般の療育施設、病院の耳鼻咽喉科です。