2020年

2020/04/15

精神保健福祉士の役割

社会的入院と精神保健福祉士について

  「社会的入院」という言葉を知っていますか?精神医療に関わる人以外ではあまり聞きなれない言葉かもしれませんね。   社会的入院とは、必ずしも治療や退院を目指さない、長期入院のことを指します。精神病患者が、医学的には入院の必要性がないにも関わらず生活上などの都合により入院生活を続けてしまうことです。   終末医療などは含みません。単に「長い入院」という意味ではなく、医療問題・社会問題として捉えられている言葉です。   今回は、この社会的入院の問題点と日本や各国の対策について見ていきましょう。     1、社会的入院の問題点   社会的入院により、さまざまな問題が起こります。まず、長期入院することで患者の社会性や生活習慣が衰退してしまいます。これによってさらに退院しにくくなってしまうという負のスパイラルに陥ってしまうのですね。   次に、共に暮らす家族など、引き取り手側に拒否されて社会的入院が起こってしまうケースもあります。この場合は強引に退院させたとしても虐待的問題に繋がる可能性があります。   そして国単位で問題となっているのが、医療費がかかってしまうこと。   高齢化が進む日本では深刻な問題です。社会的入院は公的な医療保険が利用できるため、自宅で介護が難しい家族が小さな負担で入院させることができるのですが、これが惰性的な長期入院に繋がっています。   また次に、不必要な入院患者が増えることで新しい患者を受け入れるベッドがなくなってしまいます。救急患者の受け入れにまで影響がでてしまい、助けられる命が助けられなくなってしまうという深刻な問題に繋がっています。   そして社会的入院を防ぐことにより、まだ入院が必要であるにも関わらず退院させてしまう未完退院が起きないよう留意することも求められています。     2、社会的入院への対策   では、社会的入院の問題を解消するためにはどうしたらよいのでしょう。   まずは医療費・入院費の支払い制度について、日数制限や包括支払制度の導入などの改革が必要だとされています。 実際、ドイツの医療では社会的入院を「病院誤用」と呼び、包括払い制度などで対策を講じており、一定の成果がでています。   フランスでは、長期入院を回避するため、在宅入院制度が作られました。医療チームが連携して在宅医療・訪問診療を促進しています。   スウェーデンでは、各国に見られる制度のほか、もっと社会を大きく捉えた政策を行っています。患者という一個人から離れ、国全体で考えると、社会的入院が必要のない社会を作ればいいという考え方です。   高齢者が自宅で一人で暮らしていけるよう住環境の整備をしたり、通常生活に必要な医療や器具を充実させるなどが挙げられます。基礎的な医療の質が上がることによって、社会的入院自体がそもそも少なくなる仕組みですね。   では、日本の対策はどうでしょうか。   日本は2000年から、傷病の治療は医療機関で、要介護状態の介護はソーシャルワークで、という考え方から介護保険制度が施行されました。   また、医療機関に対しては入院が長期に及ぶと診療報酬を減額することで長期入院の抑制が図られています。ですが、あまり効果が発揮されず、社会的入院患者の病床数は多いままです。     3、精神保健福祉士ができること   ここまで国が抱える問題点や国の対策についてみてきましたが、いち精神保健福祉士ができることについて考えてみましょう。   一人の力で制度や法律を作ることはできませんが、患者さん一人ひとりと向き合っているのはそれぞれを担当している精神保健福祉士です。   まずは、患者がなぜ退院できないのか、患者に寄り添って原因を考える必要があります。例えば、社会的入院の原因の多くは「居住・支援がないため」です。   居住がないなら借りればいい、と思っても、賃貸住宅を貸し渋られてしまうケースもあります。また、定期的に精神医療を受けなければならないが、居住地域に精神科がない場合もあるでしょう。一緒に住める家族がいても、世間の偏見が根強く家族が拒否することもあるのです。   あくまでこれは一例で、経済的な課題や制度利用に関する課題など、それぞれの問題に合わせて患者をサポートします。     以下のようなことが入院中にできる精神保健福祉士の援助の一端です。   ①患者の悩みを聞き、受け入れ、共感することで不安や心配を軽減する ②退院についてと処遇改善請求の相談や利用援助を行う ③療養についての相談、援助を行う ④患者の家族へ働きかけ、調整を行う ⑤入院形態の切り替えが必要な場合には説明を行う ⑥経済的な問題の調整等、必要な援助を行う ⑦退院後の生活に向けた相談に乗る ⑧社会資源や障害福祉、介護保険サービスを紹介し、調整を行う ⑨入院~退院時の病棟カンファレンスに参加する ⑩退院前訪問をし、生活状況を見ながら訪問看護等の導入を検討する   こういった援助をそれぞれの精神保健福祉士が行うことで、一つでも多くの患者が自立して退院できるようになり、社会的入院という問題の解決に繋がっていきます。

2020/04/15

精神保健福祉士の役割

世界と日本の精神保健の歴史

  精神疾患についてはよく「現代病」などと言われます。患者は年々増加し、今や5人に1人が一生の間に何かしらの精神疾患にかかるとされています。 5人に1人と言えば、1家族につき誰か1人はかかると言ってもいい数ですね。   では、精神疾患は現代よりももっと昔にはなかった病気なのでしょうか?   そんなことはありません。大昔から精神病患者は存在しています。今回は、精神保健の歴史について振り返ってみたいと思います。     1、世界の精神保健のはじまり   フランスのフィリップ・ピネルという人が、「精神病患者を鎖から解き放った」初めての医者として知られています。   18世紀終わり・フランス革命の頃です。鎖に繋がれていた精神障害者は、病気として認識されておらず人権を無視されていました。迫害されたり処罰されることもあった時代です。ピネルは患者の人権を重視し、人道的精神医学の創設者となりました。   ピネルは、はじめは骨格研究と外科施術を専門としていましたが、親友が精神系疾患にかかったことをきっかけに心理学的精神病理学医へ転向したと言われています。   精神保健福祉士を目指す皆さんにも、目指すきっかけはありましたか?   ピネルのように身近な人が精神疾患にかかったことがきっかけ、という方も多いのではないでしょうか。また、自らが精神保健福祉士の患者となった経験から、憧れるようになったという人もいるでしょう。きっかけは人それぞれですが、精神医学の父と呼ばれるピネルが少し身近に感じるエピソードです。   その後、エミール・クレペリンというドイツの精神科医が、近代精神医学の基礎を作りあげます。クレペリンは精神病を、今で言う統合失調症と躁鬱病の2つに分類しました。これにより、少なくとも精神科医の間では、精神病患者をあざけるような語彙は払しょくされたと言われています。   ですが、一般市民にはまだ浸透していません。それだけではなく他の専門を持つ医者や看護師ですら、精神病患者への理解が足りていない歴史が続きます。   そんな中、クリフォード・ホイティンガム・ビーアズというアメリカ人が、自らの精神病院での過酷な体験を本にしました。病院の患者に対する暴行や強圧について描かれた「わが魂に会うまで」という本です。精神保健福祉士を志す方はぜひ一度読んで欲しい一冊です。   ビーアズは市民運動家として死ぬまで精神衛生運動を展開し、アメリカの精神衛生運動の先駆者となりました。これが今日の精神保健福祉の拡がりをつくったと言われています。   こうして精神病患者への理解は徐々に進んでいきました。     2、大戦後の世界の精神保健   第二次世界大戦の勃発によって、精神病患者は再び迫害される歴史へと逆戻りしてしまいます。特にナチスドイツの政権下では多くの痛ましい悲劇が起こり、精神障害者や知的障害者らの多くが抹殺されました。   そして大戦後、世界精神保健連盟が設立されます。   精神衛生の向上を広い視野で企てようと、関連する諸科学をはじめ、政治・行政・司法・宗教などの各種の団体や個人で組織された団体です。大戦後は世界中で、精神病患者に関する福祉施策が見直されたのですね。   この頃から、イギリス・イタリアでは「脱施設化」が唱えられていきます。公立の精神病院を廃止し、地域やケアセンターで受入れを行う方針です。開放的で無拘束であることを原則とするなど、先進的な取り組みが進められていきます。   日本で近年言われている「地域包括ケア」の概念に近いのではないでしょうか。早くから取り組んでいる各国から多くを学び、地域包括ケアの推進に活かしていきたいですね。     3、日本の精神保健の歴史   さて、世界の動きを大まかにとらえたら、次は日本の歴史についてみていきましょう。   日本における精神障害者に関しての初めての法律は精神病者監護法です。1900年にできました。   今でいう都道府県知事の許可を得て精神病者を自宅で監置できるという法律です。これは欠陥の多い法律で、医療が十分に受けられず家族の負担も大きいという状況が生み出されていました。既に理解が進みつつある諸外国に比べ環境が悪い実態でした。   この法律の批判を受け、精神病院法ができます。1919年のことです。   都道府県が精神病院を設置できるという法律で、私宅ではなく医療の整った施設で患者を診る事ができるようになりました。ですが、国の予算が十分ではなく、私宅監置も継続されていたため、病院の設立はあまり進みませんでした。   この状態から変化があるのは、二度の大戦が終わった後、1950年のことです。欧米などの諸外国よりも10年遅れていると言われています。諸外国から精神衛生の考えが輸入され、精神衛生法がつくられました。   この法律の成立によって、上で説明した精神病者監護法・精神病院法は廃止され、精神障害者の私宅監置が禁止されました。公立精神病院の設置義務・同意入院制度・精神衛生鑑定医制度ができるなど、精神衛生に関する制度が出来上がっていきます。   また、精神障害の発生予防や健康の保持向上についても目が向けられ、精神衛生相談所が置かれました。     4、精神保健に関する課題   このまま現代へと進みたいところですが、精神保健に関する問題はそう簡単ではありません。   新たな問題として、薬物療法が導入されることで症状の改善した精神障害者が増え、そのまま長期入院・社会的入院してしまうという課題が浮かび上がってきました。   また、精神医療の在り方も十分ではなく、ライシャワー事件や宇都宮病院事件などをきっかけに日本の精神医療のあり方や社会復帰施策が不十分なことも国際的に批判されました。これが精神衛生法を大きく見直すきっかけになります。   そして精神保健法という法律が成立します。1987年のことです。   この法律では、精神障害者の人権擁護だけでなく、精神障害者の社会復帰の促進がうたわれました。これも現代に繋がる大きな課題ですね。   この頃から、地域で精神病患者を支えていく地域包括ケアの考え方や、在宅福祉の充実についても考えられていきます。「入院医療中心から地域生活中心へ」という基本的な方策が進められていきました。   そして2004年、改革のグランドデイン案が立てられました。改革の基本的視点として、「障害保健福祉の総合化」「自立支援型システムへの転換」「制度の持続可能性の確保」があげられました。この3つは今日まで続く課題として捉えられています。

2020/03/27

精神疾患患者の支援

精神障害者の就労支援について

  精神保健福祉士は、精神障害者が心身ともに回復することを支援するだけでなく、患者の社会復帰まで見据えたサポートが求められています。   今の日本では、障害者が職業を通じ、誇りを持って自立した生活を送ることができるよう、障害者雇用対策を進めています。障害者雇用促進法という法律があり、企業に対して、雇用する労働者の2.2%に相当する障害者を雇用することを義務づけています。障害者とは精神障害だけでなく発達障害や視覚障害、難病患者など多岐にわたります。   今回は、精神障害者の就労支援についてみていきましょう。     1、精神障害者に対する雇用支援施策   厚生労働省が就労に向けた支援策を提示しています。精神障害者を対象とした支援施策について列挙していきます。   ①障害者雇用率制度における精神障害者の特例 精神障害者保健福祉手帳保持者を各企業の雇用率に算定   ②精神障害者雇用トータルサポーターの配置 ハローワークに「精神障害者雇用トータルサポーター」を配置し、精神障害者等の求職者に対してはカウンセリング等、事業主に対しては課題解決のための相談援助等の専門的な知見に基づく支援を実施。   ③精神障害者に対する総合的雇用支援 地域障害者職業センターにおいて、主治医等との連携の下、新規雇入れ、職場復帰、雇用継続に関わる様々な支援ニーズに対して、総合的な支援を実施。   ④医療機関に対する就労支援プログラムのノウハウ普及・導入支援事業 就労支援に関わるノウハウを有している精神科医療機関等が、他の医療機関等に対し、新たに就労支援を開始するためのノウハウについて普及・導入支援を行う事業を実施。   ⑤精神障害者に対する雇用管理の好事例の普及 精神障害者雇用企業の担当者等から、事業主等に対し雇用ノウハウに関する説明会を開催し、精神障害者の雇用の促進を図る。   ⑥医療機関とハローワークの連携による就労支援モデル事業 就労支援プログラムを実施する医療機関とハローワークが連携した就労支援を実施するとともに、当該医療機関との信頼関係を構築する。   また、これらは精神障害者向けの施策ですが、もっと広くを対象とした支援施策で精神障害者も利用できるものは他にもあります。   ①ハローワークにおける職業相談・職業紹介 個々の障害者に応じた、きめ細かな職業相談を実施するとともに、福祉・教育等関係機関と連携した「チーム支援」による就職の準備段階から職場定着までの一貫した支援を実施。   ②特定求職者雇用開発助成金 ハローワーク等の紹介により継続して雇用する労働者として雇い入れる事業主に対して助成。   ③障害者試行雇用(トライアル雇用)事業 ハローワーク等の紹介により、障害者を事業主が試行雇用の形で受け入れることにより、障害者雇用についての理解を促し、試行雇用終了後の常用雇用への移行を進める。また、精神障害者等については、雇入れ当初は週20時間未満の就業から開始する短時間トライアル雇用を実施。   ④障害者雇用安定奨励金 障害者を雇い入れて職場支援員を配置する事業主や、仕事の進め方やコミュニケーションなど職場で生じる様々な課題や職場の状況に応じて、直接的・専門的なジョブコーチ支援を提供する事業主に対して助成。   ⑤障害者職場復帰支援助成金 事故や難病の発症等による中途障害等により長期休職を余儀なくされた労働者に対して、職場復帰のために必要な職場適応の措置を実施した事業主に対して助成。   ⑥障害者就業・生活支援センター事業 雇用、保健、福祉、教育等の地域の関係機関の連携の拠点となり、障害者の身近な地域において、就業面及び生活面にわたる一体的な支援を実施。   ⑦医療機関等との連携による就労支援セミナー等 利用者及び職員向けに就職活動に関する知識等についてセミナーを実施することにより、就職に向けた取組・支援を的確に行えるよう援助。     2、就労移行支援と就労継続支援   上記であげたのは、厚労省が設定している国の支援内容です。それだけでなく、民間でも精神障害者に対しての就労支援サービスがたくさんあります。   それらは、「就労移行支援」と「就労継続支援」の2種類に分けられます。   就労移行支援とは、一般企業への就職を目指す方に向けて、必要な知識やスキルを向上させるためにサポートを行う支援サービスです。2016年段階では就労移行支援事業所は全国に3,323ヶ所あり、利用者は約3万人と、就労移行支援事業所を利用して一般企業へ就職する人は年々増えています。   就労継続支援とは、一般企業での就職が困難な方に向けたサービスです。働く場所を提供しています。就労継続支援には、就労継続支援A型とB型の2つの枠組みがあります。A型は雇用契約があり、月収が高いです。B型は雇用契約なしで、平均月収はA型の半分以下になります。     3、就労移行支援利用までの流れ   就労移行支援を利用できる期間は原則2年間です。この2年間をフルで使う方もいれば、半年ほどでリハビリから就職まで行う方もいます。働くことに対するハードルは人それぞれなので、無理なく働くことができるよう各個人に合ったサポートが行われています。   利用する場合、まず初めにクリニックを受診します。移行支援の事業所で医師の意見書や診断書が求められるためです。その後、事業所を調べ、それぞれのサービスを比べながら通いたい事業所を決めていきます。   事業所では説明会や相談会、イベントなどを行っている場合がほとんどですので、そこでどんなプログラムや支援事業が行われているか体感できます。   その後、障害福祉サービス受給者証を申請します。これには利用予定の事業所名が必要ですので、必ず決めてから申請します。 また、利用計画も立てて記載する必要があります。支援員と面談をし、生活リズムや働き始めたい時期、自分自身の課題について考え、確認します。   障害福祉サービス受給者証を受け取った後は、利用契約を行い、利用を開始できます。  

2020/03/27

精神保健福祉士の役割

子どもと精神保健福祉士

精神保健福祉士の扱う精神疾患では、同じ病名だとしてもその原因や背景は人それぞれ違います。例えば過重労働やリストラによってうつ病になってしまった男性と、いじめにより不登校になりうつ病と診断された男児では、支援方法や解決策は全く違ったものになります。   今回は、子どもと精神保健福祉士の関わりについて見ていきましょう。 1、子どものメンタルヘルス課題 子どもに多い精神疾患と言うと、思春期のいじめによる不登校や引きこもりなどが浮かびます。その他にも、精神保健福祉士が対応すべき子どもの事例はたくさんあります。うつ病などと診断される前段階のメンタルヘルス課題について、成人するまでのライフサイクルを追っていきます。   ①胎生期 ・母体に加わる有害因子(アルコール・薬物) ・マタニティブルー ・産褥期   ②乳幼児期 ・親による虐待、ネグレクト ・育児不安   ③学童期 ・学校への不適応、行動異常 ・不登校 ・心身症 ・いじめ、非行 ・ADHD   ④思春期 ・不登校 ・家庭内暴力 ・校内暴力 ・ひきこもり ・自殺企図 ・神経性食欲不振 ・社会性逸脱行動   代表的にとらえられる学童期のいじめや思春期の不登校以外にも、メンタルヘルスの課題はたくさんあります。   対応機関は保健所・精神保健福祉センター・市町村保健センターがベースとしてあり、症状によっては医療機関に相談する必要があります。また児童の場合は児童相談所、学童期の場合は学校など、ライフサイクルの段階に合わせて機関も変わります。   精神保健福祉士は、医師・保健師・看護師・教師・スクールカウンセラー・臨床心理士・産業医など多岐に渡る他職種と共に対応していきます。 2、スクールソーシャルワーク 義務教育中の子どものメンタルヘルス課題については、スクールソーシャルワーカーが学校をベースに支援していく場合が多いです。   スクールソーシャルワーカーは、子どもの課題であるいじめや不登校、発達障害、非行やゲーム依存などに対応します。原則として精神保健福祉士・社会福祉士・臨床心理士のいずれかの資格を取得した上で、正職員として学校に勤務する場合にはスクールソーシャルワーカーとしての教育課程を修了し公務員採用試験に合格する必要があります。   スクールソーシャルワーカーは、自らの力で問題の解決を図れるように支援していきます。それは問題に対して直接的にアプローチするだけではありません。例えば不登校の児童に対し、原因がいじめと見られる場合でも、子どもの家庭環境や過去のメンタルヘルス問題との交互関係がないかを見ていく必要があります。家庭の貧困や虐待、親の精神疾患や認知症など、問題が根深いほど長期的な支援が必要です。 思春期のこころの発達 思春期のメンタルヘルス課題を考える上で、こころの発達がどういった要因で構成されているのかを知っておく必要があります。先ほど挙げたように、不登校の原因がいじめだけでなく現在の家庭の問題や過去の虐待などが複合的に絡み合っている場合があるからです。要因は大きく4つに分けられます。   ①社会 社会システム・価値観・流行など   ②帰属集団 地域特性・学校文化・仲間集団など   ③家庭環境 社会経済状態・親の養育機能・親の性格傾向など   ④発達 身体的特性・認知的特性・発達課題など   社会や学校、仲間、家族と密接に関わり合いながら一人の人間として自我を確立していきます。確立すると「自分は自分、他人は他人」という感覚が育ちます。その感覚ができる前に、仲間関係や親とトラブルになってしまうとこころの発達に重大な影響を及ぼします。   また、見落としがちなのは④の発達です。周りと違う身体的特性に悩んだり、性の問題を誰にも打ち明けられない子どもは多くいます。 精神疾患を持った親の子どもとの関わり 精神保健福祉士が関わる子どもは、子ども自身が患者の場合だけではありません。精神疾患を持った母親・父親の子どもと関わることも多くあります。むしろ、スクールソーシャルワーカーや児童養護施設などで働く場合を除けば、患者の子どもとして関わる方が主だという精神保健福祉士も多いのではないでしょうか。   精神保健福祉士は患者の家族もサポートしていく仕事です。それは子どもも含まれます。親がどんな病気なのか、安心して話せる場を提供することもそのひとつでしょう。   子どもは親から病気について説明されていなかったり、説明されていても不調や症状についてうまく理解ができない場合があります。また、理解ができず混乱するだけでなく自分自身に原因があるのではないかと自分を責めてしまう子どももいます。   子どもは親のことで困ったとき、周りに相談ができません。スクールソーシャルワーカーやスクールカウンセラーは学校での問題に関して相談するところだと思い込んでいて、家庭について話しをしない子どもも多いのです。   そういった場合、精神保健福祉士の方から子どもの相談に乗ることが大切です。親が精神疾患について診察している間に相談室で世間話をするだけでも価値があります。何かわからないことがないか、困っていることはないか、見過ごさずに話しかけていく姿勢が精神保健福祉士には求められています。

2020/03/12

精神疾患

代表的な精神疾患「うつ病」について

  精神保健福祉士の扱う病気の中で、代表的なもののひとつに「うつ病」があります。うつという言葉はよく聞きますよね。   一言で説明するのは難しい病気で、身近でありながら原因や対処がわかりにくい病気です。気持ちや気力で解決できる問題ではなく、治療が必要なこころの病気です。     1、うつ病とその症状について   うつ病はまず、「憂鬱で気分が晴れないな」「何事にもやる気が起きないぞ」といった症状からはじまり、これが1日中や一定期間以上続きます。20年前には40万人程だった患者数ですが、10年前には100万人を突破し、急速に増加傾向にあります。社会的・経済的な影響で増えていると考えられています。   人間は時に憂鬱な気分になることはありますが、自然治癒力によって回復するものです。時間が経過しても改善しない、もしくは悪化してしまい、生活への支障が大きくなることで「病気」としてとらえられることになります。   うつ病が進むと気分が憂鬱なだけでなく、眠れなくなる・食欲がなくなる・体重が減る・体がだるい・疲れやすい、などの症状が出ます。それが進むと、自分を責めたり、生きる価値がないという考えに至り、自殺へと進んでしまうこともあるため注意が必要です。     2、うつ病の種類   うつ病はさまざまな分類の仕方があり、それによっていくつかの種類に分けられます。獲得長とともに列挙します。   ①うつ状態だけの症状「単極性うつ病」 ②うつ状態と躁状態の両方の症状「双極性うつ病」 ③重症度によって「軽症」「中等症」「重症」 ④初発の場合「単一性うつ病」 ⑤再発の場合「反復性うつ病」 ⑥役割に対する過剰適応による症状「メランコリー型うつ病」 ⑦良いことに対しては気分が良くなる「非定型うつ病」 ⑧特定の季節に発症する「季節型うつ病」 ⑨産後4週以内に発症する「産後うつ病」   このほか、「新型うつ病」や「現代型うつ病」などといった呼び方もされますが、専門家の用いる診断には存在しない呼び方です。     3、うつ病の4つの原因   上で見たように、うつ病にはさまざまな種類があります。そして、それぞれが複合的に絡み合った要因によって引き起こされているため、うつ病の原因を1つに特定することは困難です。   例えば、トラウマのような出来事がうつ状態を引き起こしたとしても、それ以前にいくつかのことが重なっていることも多くあります。   原因が特定できないという前提の上で、傾向を4つに分類してみましょう。   ①環境要因 前述したトラウマが引き起こすうつ病などが環境要因です。家族や親しい人の死や、仕事や財産を失うこと、人間関係の強いトラブルなどが要因です。仕事の降格なども含めると本当にさまざまな出来事が要因となる可能性があります。   ②性格傾向 完璧主義であったり几帳面・凝り性・他人の目を気にしすぎてしまうなど、性格によるうつ病のことです。これらの性格によって脳内のエネルギーが消費され、物事がいい方向に進んでいる間はそのエネルギーは消費した分きちんと回復されますが、成果が出せなかったりうまくいかないことが増えるとエネルギーが減ったままになりうつ状態が発生します。   ③遺伝的要因 遺伝的に、神経伝達物質であるセロトニンやノルアドレナリンの機能が低下していたり伝達がうまくいかなくなってしまい、うつ病の状態が起きます。   ④慢性的な身体疾患 こちらも同様に、脳の中の神経細胞にトラブルが生じている場合です。身体疾患によってそれが引き起こされることがあります。     4、うつ病の3つの治療   うつ病の治療には3つの大きな柱があります。「休養」「薬物療法」「精神療法」です。こころの病気は特別な治療が必要だと思うかもしれませんが、実は身体疾患と基本的に同じです。   ①休養 休養は一見して治療法ではないように思うかもしれませんが、うつ病の方にとってとても重要です。うつ状態とは脳内のエネルギーが少なくなっていて、時間によって回復する量よりも生活によって消耗する量の方が多くなってしまっている状態です。そのため、消耗量を減らすために休養し、ゆっくりと回復を待つことが治療になります。   休養は、家族や社会の理解が最も必要な治療です。仕事であれば残業を減らすレベルから、しばらく休む、辞めるなどといった選択も必要でしょう。自宅でゆっくりと過ごす選択をしても、家族とのトラブルが原因であれば心が休まらない場合もあります。そういった時には入院を検討するなど、状況に応じて休養の仕方を考えることが大切です。   ②薬物療法 主に「抗うつ薬」による治療です。もともと脳内にある物質であるセロトニンやノルアドレナリンが有効に機能するよう、サポートする薬です。他にも、不安症状の強い方には抗不安薬を、眠れない状態が続いている方には睡眠導入剤など、さまざまな薬を併用して治療します。   薬物療法で注意しなければいけないことは、まず即効性のある薬ではないため、効果が現れるまで時間がかかることを理解することです。自己判断で服薬をやめてしまう方がいますが、主治医の判断に従うべきでしょう。   また、副作用についても注意が必要です。眠くなる、胃腸が弱くなるなど、人によっては辛く感じることもあります。   ③精神療法 精神保健福祉士の領域が、精神療法です。うつ病を引き起こした原因を取り除くためには、休養と薬物療法だけでは解決していきません。精神療法を通して、環境要因や性格傾向など変えていける部分を検討していきます。また、再発予防も重要です。   具体的には「認知行動療法」「森田療法」「内観療法」などさまざまな治療法が提案されています。例えば認知行動療法であれば、ひとつの出来事に対して本人の気持ちや行動を振り返ってみて、極端な考え方がみられないか、他の解釈や見解をしてみて心が軽くなるのではないか、などを考え、心の安定を探っていく精神療法です。   いずれの療法であっても、心の中にある生きる力を強化することが目的です。要因となった出来事に対処するだけでなく、再発予防として、考え方や性格といった根深い問題に向き合う必要があるでしょう。  

2020/03/04

精神疾患

代表的な精神疾患「統合失調症」について

  精神保健福祉士は、代表的な精神疾患についてよく理解し学ぶ必要があります。 代表的な精神疾患のうちのひとつである、「統合失調症」について見ていきましょう。     1、統合失調症とは?   統合失調症という名前は聞いたことがあるのではないでしょうか?精神疾患の中では代表的なもので、現代では100~120人に1人がかかるといわれているため、決して特殊な病気ではありません。   症状は、頭の中で考えていることがまとまらなくなる状態が続きます。考えだけでなく、気持ちや心に関してもそうです。   原因ははっきりとわかっておらず、ストレスだったり、精神伝達物質のバランスによるものだったり、さまざまです。   思春期から40歳ごろまでにかかりやすいと言われており、他の精神疾患よりも比較的若い人がかかりやすいことも特徴です。     2、統合失調症の3つの症状   統合失調症は大きく3つの症状があります。   ①陽性症状 強い妄想にとりつかれ、幻覚を見たり聞いたりします。考えも混乱し、一貫性がなくなるため、何を話しているのかわからなくなることがあります。   ②陰性症状 感情が平坦になっていきます。喜怒哀楽が乏しくなり、他人の感情に共感することも少なくなります。意欲がなくなりコミュニケーションをとらなくなります。   ③認知障害 記憶力・集中力・判断力が低下します。生活する上で計画を立てることができなくなり、作業能率が極端に落ちます。     3、統合失調症の4つの経過   統合失調症の経過は、前兆期・急性期・消耗期・回復期に分けられます。   ①前兆期 眠れない、音に敏感になる、気持ちが焦る、気分が変わりやすくなる、などの症状が出ます。過労や睡眠不足を引き起こす可能性があります。   ②急性期 不安になりやすく、眠れず、被害的な幻聴や妄想などの陽性症状が増えます。睡眠や休息はもちろん、安心感を得ることが大切です。   ③消耗期 眠気やだるさを感じ、意欲がなくなりやる気や自信がなくなるといった陰性症状の出る時期です。数ヶ月単位で休息を取り、規則正しい睡眠を取ることと無理をせず暮らすことが必要です。   ④回復期 徐々に気持ちにゆとりが生まれ、周囲への関心が戻ってきます。体力作りも行っていきましょう。楽しみながらリハビリテーションすることが大事です。     4、統合失調症の治療と精神保健福祉士の関わり   統合失調症は、各症状・各経過に合わせ、薬物療法と精神的リハビリテーションを組み合わせて治療していきます。   薬物療法は、「抗精神病薬」を中心として行います。この薬は、従来型の定型抗精神病薬と新しくできた非定型抗精神病薬の2種類があります。従来型は陽性症状へアプローチでき、脳内の神経伝達物質のバランスを整える効果があります。新規薬では陽性症状に加えて陰性症状・認知障害への効果も期待できます。不安感を取り除きたい・睡眠を助けて欲しいなど、症状や必要に応じて使われています。   薬物療法に関しては、薬の処方はもちろん、副作用に関する相談や服薬をいつまで続けるかなど、継続的に主治医と相談しながら進めていく必要があります。効果が現れるまでには時間がかかったり、一度治っても服薬をやめることで再発率が高まってしまったりするため、自己判断で服薬を取りやめるのは危険です。   そして薬物療法と平行して行っていくのが精神科リハビリテーションです。精神保健福祉士が主に関わる部分がこの領域ですね。   統合失調症になることで生まれる「生きづらさ」を改善し、生活をスムーズにするために行います。デイケアや作業療法、生活技能訓練、心理教育などのプログラムを実施していきます。   プログラムの実施は、病院の場合であれば病棟やデイケア、作業療法センターなどで行います。精神保健福祉士と医師だけでなく、看護師、作業療法士、心理士、薬剤師など、多職種スタッフが協力し合いながらリハビリテーションを進めます。     5、再発しやすい統合失調症   統合失調症は、長期にわたって治療を続ける必要のある病気です。しっかりと完治する前に治療をやめてしまうと、再発を繰り返し、薬が効きにくくなったり回復に時間がかかるようになってしまいます。   長期的にみて自立した生活を送るためには、精神保健福祉士や医師が将来を見据えたサポートを行うことが大切です。また、本人だけでなく家族や地域の理解も必要でしょう。   統合失調症を支えるサポート制度がいくつか用意されているので、うまく利用しながら治療や再発防止に努めましょう。     ①自立支援医療制度 通院でかかる医療費の自己負担分を原則として1割に軽減できる制度です。   ②精神障碍者保健福祉手帳 自立と社会参加を促進する制度です。手帳を持つことで割引や税金控除など、さまざまなサービスを受けられます。   ③障害年金 加入している保険から生活費を補うお金が支払われる制度です。   ④生活保護と受給資格 働けなくなった人を対象に国や地方自治体が生活を支援してくれる制度です。   ⑤さまざまな就労支援 ハローワークや職業センターなどで、求職情報の提供や支援を行っています。   ⑥各種相談窓口 かかりつけの医療機関以外でも、窓口や電話で相談することができます。