介護現場ではICT化が進んでいます。厚生労働省によって推進されており、これから介護現場で働く介護福祉士にとってはICTの活用は必要不可欠でしょう。介護福祉士が知るべきICTの概要や活用方法についてご説明します。
ICTという言葉を聞くことが多くなってきました。ICTとは「Information and Communication Technology」の略で、日本語では「情報通信技術」のことです。
ITとどう違うの?と思いますよね。ITは情報技術そのもの、あるいは情報処理についてという意味が大きいのに対し、ICTはコミュニケーションに関わる側面が大きいです。ITを利用して情報の伝達・共有を行うサービスや産業をICTと総称しています。日本ではITの方が耳慣れていますが、国際的にはICTを使う方が一般的なんですよ。
ICT技術はスマートフォンやタブレット端末を使って行うもの全てに活用されています。例えばメールやSNSでのやり取り、ネットショッピングなど。交通系ICカードも銀行ATMもICT技術が活用された事例です。
他にもIoTという言葉を聞くこともあるかもしれません。IoTは「Internet of Things」のことで、日本語では「モノのインターネット」と理解しましょう。スマート家電をイメージするとわかりやすいと思います。モノが人を介さず勝手にインターネットに繋がることを指し、自動運転や遠隔操作などがIoTにあたります。家で使うものはIoT家電と呼ぶことが多いですね。
介護福祉士が活用するICT技術はどんなものがあるでしょうか。代表的にはタブレットを利用した情報共有、勤怠管理や給与管理システム、見守りシステムなどが挙げられます。
これらICT技術の導入によって、介護福祉士の仕事が効率化され、負担軽減に繋がっています。人材不足が叫ばれる介護業界においては多大なる恩恵がありました。ICTで補える部分が増えたことによって、介護福祉士が介護サービスに専念できる時間が増え、サービスの質を向上させることに繋がります。
タブレット機器を利用して介護記録が取れるようになりました。訪問介護の現場で特に活躍しています。1軒の訪問に対し1台のタブレット機器を配布し、専用のアプリを入れておきます。そして訪問した自宅でアプリを開いて介護記録を取ります。カルテを共有しサービス内容を記録していくことができ、それを事業所ではクラウド上で一括自動集計していきます。これにより請求処理作業も圧倒的に簡単になりました。
介護福祉士をはじめとする介護スタッフの勤怠管理・給与管理においてもICTが導入できます。訪問スタッフが多い介護現場では、これまで勤怠の打刻のために事業所を行き来するという場面も少なくありませんでした。ICT化されたことで訪問先にて勤務開始と終了を管理することができ、負担軽減に繋がります。また、夜勤スタッフとの交代時など、ICT機器で共有しておくことによって手間取ることなくスムーズに申し送りができています。
介護現場におけるICT活用の最大の事例といってもいいでしょう。見守りシステムとは、介護対象の施設利用者の離床や在室状況をチェックできる仕組みです。介護スタッフは利用者の様子を常に気にかけている必要がありますが、24時間ずっと利用者のそばで観察していては介護業務が回っていきません。この見守りをICT化したことで、ベッドを離れているのか・トイレに行っているのか・睡眠をとっているのか、などの状況が離れていてもわかるようになりました。異状があればいち早く気付くことができ、問題がない時は他の業務を行えています。
介護福祉士の仕事内容の中で、排泄の介助があります。排泄の介助は毎日何度も必ず行う業務であり、一人ひとりに時間をしっかりと使って介助する必要があります。ICT化がされてもそれ自体は変わりませんが、排泄時間をある程度予測することができるようになったことで業務は大幅に効率化されています。夜中は排泄介助の時間を取ることが難しいですが、眠りが浅い時間を知らせて排泄介助を行うなど適切なタイミングがわかるようになりました。
介護現場にてICTを導入することは良いことばかりのように思われますが、懸念点もありなかなか導入が進まない現場もあるようです。
懸念点の1つは、導入コストがかかることです。ICT機器としてパソコン・スマートフォン・タブレットなどの端末を必要数用意しなければならず、その通信費用もかかります。訪問介護で訪問先から機器を繋ぐ場合にはWi-Fiの整備が必要な場合もあるでしょう。
しかし導入コストの問題に対しては、厚生労働省が『ICT導入支援事業』というものを行っており、介護事業所には国から補助が出るようになっています。令和3年には全ての都道府県にて支援事業が実施予定です。令和2年度の補正予算案で補助上限額は、職員が1~10人の事業所は100万円、31人以上の事業所は260万円となっています。
もう1つの懸念点は、介護福祉士のITリテラシーを高める必要があることです。ICT機器を導入しても介護現場のスタッフが使えなければ意味がありません。新しいことを覚えるには負担がかかり、普段の業務と平行してやらなければいけないことは一時的に増えてしまいます。そのためなかなかICTの勉強に取り組めないという介護福祉士も多いようです。
これは介護事業所が教育システムを作ることが第一ですが、元々介護福祉士になる前に勉強しておけるとよりスムーズに現場で働けるでしょう。そのため様々な養成学校でICTを使った授業やプログラムが展開されています。授業で扱うICT機器はタブレット端末だけではなく、ロボット介助やeスポーツの取り組みなど最新技術を体験できることもあります。